（１）怒りの原因

 
第一歌（Ｐ１１）
(1-1)(1-2)(1-3)(1-4)(1-5)(1-6)(1-7)
怒りを歌え、女神よ、ペレウスの子アキレスの−−−アカイア勢に数知れぬ苦難をもたらし、あまた勇士らの猛（たけ）き魂を冥府の王（アイデス）の王に投げ与え、その亡骸（なきがら）は群がる野犬野鳥の啖（くら）うにまかせたかの呪うべき怒りを。かくてゼウスの神慮は遂げられていったが、はじめアトレウスの子、民を統（す）べる王アガメムノンと勇将アキレスとが、仲違（なかたが）いして袂（たもと）を分つ時より語り起して、歌いたまえよ。(1-1-7)

第一歌（Ｐ２７）怒りの源
(1-326)(1-327)(1-328)(1-329)(1-330)(1-331)(1-332)(1-333)(1-334)(1-335)(1-336)(1-337)
(1-338)(1-339)(1-340)(1-341)(1-342)(1-343)(1-344)
このように厳しく言い渡して二人を使いに出した。気は進まぬながら二人は稔りなき海の渚を歩み、やがてミュルミドネス勢の船の陣屋へ着くと、折しもアキレスは黒塗りの船の陣屋の傍（かたわ）らに坐っていたが、二人の姿を見てもとより機嫌の良いはずはない。

二人は恐怖に襲われ、王アキレスへの畏敬の念もそれに加わって、言葉をかけることも訊ねることもできず立ちすくんでいた。しかしアキレスは心の内で事の次第を悟り、声を発していうには、

「ゼウスならびに人間の使者を務める伝令使の両人、よく来たな。もっと近くへ寄るがよい。わたしに対してお前たちにはなんの罪もない。罪を問われるべきは、ブリセイスを引き取りにお前たちをよこしたアガメムノンだ。

さあ、ゼウスの血を引くパトロクレス（パトロクロス）よ、娘をここへ連れてきて、この者たちに渡してやってくれ。いつの日か味方を酷（むご）い災禍（さいか：災害）より救うべくう、わたしを必要とすることがあったなら、この二人にこそ至福なる神、死すべき人間、さらにはまた冷酷無惨の王の面前で、証人になってもらおう。

まこと彼奴（きゃつ）めは心狂って猛（たけ）り立つばかりで、来（こ）し方（かた）行く末を見極めて、船の傍らで戦うアカイア勢の身の安全を慮（おもんばか）ることなどできぬ男なのだ」。(1-326-344)

第一歌（Ｐ２８）
(1-345)(1-346)(1-347)(1-348)(1-349)(1-350)(1-351)(1-352)(1-353)(1-354)(1-355)(1-356)
こういうと、パトロクロスは愛する戦友のいう通りに、頬（ほお）美（ウル）わしいブリセイスを陣屋の内から連れ出して引き渡し、二人の使者はアカイア人の船の陣地へ帰ってゆく。娘は後ろ髪をひかれる想（おも）いで使者に陥（おちい）って立ち去ったが−−−この時アキレスは、はらはらと涙をこぼし、つと立ち上がって僚友（りょうゆう）たちから離れると、涯（はて）しなく拡がる海原（うなばら）を眺（なが）めつつ、灰色の海の渚（なぎさ）に腰をおろした。両手を前に差し伸べて、母（なる女神）にかきくどくが如く祈りながら、

「母上よ、たとえ命短きわたしとはいえ、あなたがわたしの母であるからには、高天（アイテル）に雷（いかずち）を鳴らしオリンポスに住まいますゼウスにしても、せめて名誉なりとおわたしに保証して下さって然るべきであったでしょうに。

しかるに今はわたしの名誉など少しも構（かま）って下さらぬ。広大な領地を誇るアガメムノン、アトレウスの子が、わたしの分け前を自ら奪ってわが物とし、わたしに恥辱（ちじょく）を与えたというのに−−−」。(1-357-363)


(1-357)(1-358)(1-359)(1-360)(1-361)(1-362)(1-363)
涙ながらにこういうと、海底深く老夫のお傍（かたわ）らに坐っていた母なる女神（テティス）はその声を聞き、灰色の海の底から霧の如くするすると浮び上り、涙を流すアキレスの前に腰をおろした。やさしくわが子を撫（な）でてやり、その名を呼んでいうには、

「わが子よ、なにを泣いておいでか。なにがそれほど悲しいのです。わたしにも判るように、自分ひとりの胸にしまわず、すっかり話しておくれ」。(1-357-363)
 
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トロイ戦争は、紀元前１２００年のころとされる。旧約聖書の「出エジプト記」のころである。その物語は、盲目の吟遊詩人たちによって作られ、個々のパーツとして伝承された。紀元前８００年ごろ、旧約聖書の「列王紀」のころ、ホメロスによって連続した物語としてまとまられた。ただ、ホメロスとは誰かは定かでない。紀元前３５０年ころのソクラテスは、ホメロスの「イリアス」と「オデッセウス」引用するが、吟遊詩人の語りを聞き、また図書館でこれらの断片を読んだのであろう。 
 
　 

2015/3/29 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会