９（８）母には告げず

○（９−８）イウルスが危険任務に赴き残す母を思う若者を励まし贈り物の贈与 (9-275)(9-276)(9-277)(9-278)(9-279)(9-280)(9-281) (9-282)(9-283)(9-284)(9-285)(9-286) さて今度は、君（きみ）の方だが、わたしとあまり歳（とし）が違わぬ少年（しょうねん）なのに、何と見上げた心がけだ。わたしはこの胸に君をしっかり受け止めよう。いかなる場合にも、わたしは君を、わが側（そば）から離さぬ。どんな栄光も、わたしは君と分ちあいたい。戦争も平和も、一緒（いっしょ）に乗り越えていこう。行動でも言葉でも、わたしは君に最大の信頼を寄せる」。 これに対してエウリュアルスは答えて言った。「こんな冒険に加われるのですもの、いつの日かわたしがそれにふさわしくなかったなどと言われたくない。ただ幸運の女神（フォルトウナ）が加勢してくれますように。決して不運（ふうん）が来ませんように。 でもどのような御褒美（ごほうび）にも代えがたいお願いがひとつあります。わたしには母がいます。プリアムスの古き一族の出で、健気（けなげ）にもイリアの地（トロヤ）を離れてわたしと行動を共にしてくれました。アケステス王（トロイ出身のシチリヤ島シクラの王）の城壁にも留まろうとはしなかったのです。(9-275-286) (9-287)(9-288)(9-289)(9-290)(9-291)(9-292)(9-293) (9-294)(9-295) わたしは今、この母に何も報（しら）せず出発します。母はわたしの危険な任務のことを何も知らないのです。わたしは母には別れを告げずに行くのです。ああ、この事の証人は、この夜と、あなたの右手です。わたしは、母の涙を見たらもう、何もできなくなってしまいそうです。そこであなたにお頼みします。どうか無力な母を慰（なぐさ）めてやってください。そうぞ、あとに残った母を助けてあげてください。 このことをあなたにしかとお頼みすることができるなら、わたしは力が湧（わ）いてきます。どんな困難にも向かっていけます」。ダルダヌスの兵（つわもの）たちは皆、心打（こころう）たれて涙を流した。とりわけ美しいイウルス（アスカニウス）は、自分の父を思う心を刺激（しげき）されて、こう述（の）べずには居（い）られなかった。(9-287-295) (9-296)(9-297)(9-298)(9-299)(9-300)(9-301)(9-302) (9-303)(9-304)(9-305) 「君（きみ）の立派（りっぱ）な企てに相応（ふさわ）しいことはすべて約束しよう。君の母上はわたしの母ともなろう。ただクレウサ（イウルスの母）という名前がないだけだ。君のような立派な武士（もののふ）を産んだ功績は大きく報いられねばならぬ。父がよくしたように(4-361)、わたしは今このわが頭（かしら）にかけて誓う。 君が手柄（てがら）をあげて帰って還（かえ）ってきた時に得る約束の褒美（ほうび）、それはそっくりそのまま君の母上と君の一族のものとなる」。彼は涙をながしつつこう言い終え、肩から黄金（こがね）に輝く一振（ひとふ）りのの剣（けん）をはずした。それはクレタの人リュカオンが、驚嘆（きょうたん）の技（わざ）を尽して拵（こしら）えた逸品（いっぴん）で、扱いやすく象牙（ぞうげ）の鞘（さや）に納まっていた。(9-296-305) (9-306)(9-307)(9-308)(9-309)(9-310)(9-311)(9-312)(9-313) ニススにはムネステウス(9-175)が恐ろしいライオンの毛皮の外套（がいとう）を餞別（せんべつ）に贈った。また忠義なアレテスは、彼と兜（かぶと）を交換した。軍装（ぐんそう）が整うとふたりは直ちに出発した。おもだつ人々は全員、老いも若きも、門のところまで同道（どうどう）して、無事を祈りつつ彼らを見送った。 わけてもイウルスは、若年（じゃくねん）には似合わぬ心遣（こことづか）いをし、男らしく大人の配慮を尽しつつ、出発するふたりに、父への伝言をあまた述べた。だが、風がこれらの言葉を吹き散らし、空しく雲に伝えたのみだった。(9-306-313)

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2015/11/29 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会