９（７）取らぬ狸の皮

　９（７）取らぬ狸(たぬき)の皮

○（９－７）軍議アエネアスにトウルヌス軍来襲と船が燃え去った伝令を誰に
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地上の生きとし生けるものたちが眠りで悩みを癒（いや）し、心の苦しみを忘れる時刻だった。この時、テウクリ人の将師（しょうし）たち、選ばれし若武者たちは集まり、今なすべき事について、アエネアス王に火急（かきゅう）を伝えるのは誰かなどについて、相談（そうだん）の最中（さいちゅう）だった。それらはすべて国家の存亡をかけた話題だった。

集まりは城壁のあいだの庭で行われていた。皆、長い投槍に身をもたせ、手で盾を支（ささ）えていた。そこへニニスとエウリュアルスが息急（いきせ）き切って駆けつけてきた。彼らは自分たちもそこへ加えてほしいと訴えた。彼らは、大事な話がある、しばらく聞いてもらえないかと言う。直（ただ）ちにイウルス（アスカニウス）は興奮する彼らを迎え、ニニスに話すよう命じた。(9-224-233)

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そこでヒュルタクスの子（ニニス）は言った、「アエネアスの一党（いっとう）の方々（かたがた）、われらの言上（ごんじょう）を若輩（じゃくはい）者の戯言（ざれごと）などと一蹴（いっしゅう）なさらず、どうぞ偏見（へんけん）なくお聞き願いたい。ルトウリ人たちは今ワインが効いて、深く静かに眠っております。われわれは、計略にかなう場所をこの目で見ました。それは海に一番近い門から、二股（ふたまた）になって延（の）びています。

そこではかがり火が焚（た）かれておりません。黒煙（こくえん）が一筋、星空（ほしぞら）に上がっております。もしもわれらにこの幸運の女神（フォルトウナ）を使わせていただけますなら、われら必ずアエネアス王を訪（たず）ね当ててパランテアの城壁に至り、邪魔する敵おば切って棄て、戦利品をば携えて再び御前（おんまえ）に罷（まか）り出る所存（しょぞん）にござ候（そうろう）。

われらが道に迷うことはありませぬ。われらはすでに小暗（おぐら）き峪（たに）の彼方（かなた）に町とおぼしきものを確認してござる。狩に明け暮れてござれば川筋（かわすじ）もよく心得）（こころえ）てござる」。(9-234-245)

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すると年齢を重ねて思考の熟し切ったアレテス(1-123)が口を開いた。「おお、さてはトロヤをつねに守護したまいし故郷（ふるさと）の神々よ(2-704)、未（いま）だあなたがたがテウクリ人を滅ぼしたまうみ心にはあらずと見ましたぞ。かかる忠勇の若者をわれらに与えたまい、かかる決意をこの若者どもに授（さず）けたまうからには」。

彼はこう言ってふたりの肩を抱き右手を握りしめ、顔と頬（ほお）を涙で濡（ぬ）らしながら続けた。「若者たちよ、わしはそなたらの勲功（くんこう）に、どうやって報（むく）いたら良いものか。神々の賞賛と武勇の誉れこそ何よりの報いとは言うものの、心優（こころやさ）しきアエネアス王からも直（ただ）ちに賞賛がいただけること必定（ひつじょう）じゃ。ましておん年（とし）未（ま）だ若きアスカニウス殿が、そなたらの働きぶりを忘れることはあるまいぞ」。(9-246-256)

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「いや改めて、わたしからもお願いする。この場を切り抜けるには、何としてでも父上に戻ってもらわねばならぬ」とアスカニウスが、言葉をはさんだ。「ニスス、頼むぞ。偉大な家御守護神（ペナテス）にかけて、アッサラクス（アエネアスの曾祖父）一族の家霊（かれい：ラル）にかけて、白髪（しろかみ）のウェスタの内陣（ないじん：仏閣などで本尊を安置する奥まった部分：5-745）にかけて、お願いするぞ。

わたしの幸運の女神（フォルトウナ）と信頼をしっかりとふたりの胸に預かってほしい。父上をここへ、わたしの目の前へお連れしてほしい。父上さえ戻れば、ひとまず憂（うれ）いがなくなる。お礼として見事（みごと）な彫（ほ）りの入った一双（いっそう）の銀の盃（さかずき）を差し上げよう。これはわが父が、アリスバ（トロヤ地方の町）を降伏（こうふく）せしめて得たものだ。

これに一対（いっつい）の鼎（かなえ：トリポダという）を添えよう。さらに２マグナ・タレンタ（聖書には巨額の単位としてタラントがある）の値打ちのある黄金と、アンティークな混酒器（クラテル）を付けよう。これは、あのシドンの女王、ディドからの贈り物なのです。
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それから、もしわれらが首尾よくイタリアを征服（せいふく）して王笏（おうしゃく）を手にし、戦利品を分ける籤（くじ）の時が来たら、ニススよ、おまえも見ただろう、トウルヌスの乗った馬と、あの黄金（おうごん）に輝く甲冑（かっちゅう）、あの馬とあの盾、そしてあの赤い冠毛（かんもう：クリスタ）、あれを特別におまえの分（ぶん）に取っておく。あれは今からもうおまえの取り分にしておこう。

それから父上は、おまえのために、素敵（すてき）な十二人の貴婦人（きふじん：マテルという）を下さるだろう。捕虜（ほりょ）とその武器も添えてな。それだけではないぞ。ラティヌス王の所領からもおまえの取り分があるはずだ。(9-267-274)

2015/11/29 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会