９（１９）川に逃げる

○（９−１９）トロイ幕閣の軍議にて結束トウルヌスを川に敗退させる そのさまはまるで、皆で一匹の獰猛（どうもう）なライオンを槍衾（やりぶすま）の中に封じ込めているようであった。猛獣は怯（おび）えながらも凶暴（きょうぼう）で、獰悪（どうあく）な眼光（がんこう）で威嚇（いかく）しつつ、徐々（じょじょ）に後退（こうたい）していく。興奮していて負けず嫌いなので決して相手に背を見せることをしない。だが、槍を構える狩人（かりうど）たちに襲い掛かろうとしても、その隙が見出（みいだ）せない。トウルヌスはこんな状態に陥った。慎重（しんちょう）にゆっくりと退（ひ）いていったが、心（こころ）では怒りがたぎっていた。(9-788-798) (9-799)(9-800)(9-801)(9-802)(9-803)(9-804)(9-805) 彼は二度、包囲陣の直中（ただなか）に切り込んでみた。そしてその度（たび）に戦陣は崩れ、兵（へい）は壁に沿（そ）って逃げた。だがそのつどすぐに別の陣から新手（あらて）の兵（へい）が補充され、堅い包囲陣は保持された。今度（こんど）ばかりはサトウルヌスの御娘のユノも、手出しができなかった。 天（オリュムプス）から大神ユピテルが、イリスを使者として御妹神（お・いもうと・かみ：ユノのこと）のもとに遣わしたもうたのだ。イリスは風に乗って厳（きび）しい御掟（ごじょう：貴人の命令）を運んできた。それは何が何でもトウルヌスは、テウクリ人の高き城壁から退去せねばならぬというものであった。(9-799-805) (9-806)(9-807)(9-808)(9-809)(9-810)(9-811)(9-812) (9-813)(9-814)(9-815)(9-816)(9-817)(9-818) こうなると彼の若さも十分（じゅうぶん）力を発揮（はっき）できなかった。盾も支えきれず、右手ももはや働かず、あらゆる方向から槍が飛んできて、彼を圧倒した。こめかみの窪（くぼみ）の周りで碗（わん）なす兜（かぶと）が絶えずがんがんと金属の呻（うな）りをたてた。岩塊（がんかい）が堅固（けんご）な青銅の具足（ぐそく）を引き裂き、兜の天辺（てっぺん）の冠飾（かんしょく：ユバという）も飛び散った。盾（たて）錐（すい）（ウムボ2-553）はもはや打撃をかわす用をはたさなくなった。 トロヤ人は投槍を倍加し、ムネステウスは自らも雷光（らいこう）の如き攻撃を続けた。トウルヌスの全身は、吹き出る汗に包まれた。脂（あぶら）を含んだ黒い液体が、流れとなって滴（したた）り落ちた。彼にはもはや息つく暇（ひま）も無く、病的なあえぎが、疲れた全身を震わせた。 ついに彼は、全身武装のまま身体を翻（ひるがえ）し、頭から川の中へ飛び込んだ。すると川は黄金（おうごん）の渦（うず）を巻いて彼を受け止めた。そして優（やさ）しく波打ちながら彼を持ち上げ、そのまま味方の陣へと流した。彼は歓声をあげた。そして殺戮（さつりく）の血を洗い流しながら戻っていった。(9-806-818)

（完）

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2015/12/04 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会