７（１８）鹿紛争が戦端開く

　７（１８）鹿紛争が戦端開く

○（７－１８）アスカニウスとテュルルスが戦端を開いた
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こうして双方の戦列が整えられると、それはもはや堅い木の幹や焼き杭で殴りあう田舎の喧嘩ではなくなった。今や諸刃（もろは）の剣（つるぎ）が決着をつけようとしていた。黒い兵刃（へいのつるぎ）の穂が密集して並び、その青銅の太刀（たち）は、太陽を反射してきらきらと輝き、密雲（みつぐも）に光を投げ返した。

それはあたかも、海面を風が吹き渡りはじめると、まず白波（しらなみ）が立ち、それから徐々に海が身を起していく、そんな模様に似ていた。海はやがて高い波を持ち上げ、ついには海底から天高くそびえ立つ。(7-523-530)

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まず最前列にいた若者が、呻（うな）りをあげて飛来（ひらい）した矢に射られてどうと倒れた。彼はテュルルスの長男のアルモだった。矢は彼の咽喉（のど）を射抜いて湿った声の通り道を塞（ふさ）ぎ、血潮（ちしお）を迸（ほとばし）らせて儚（はかな）き命（いのち）を奪った。

まわりにはたちまち死体の山が築かれた。その中には、争いの仲裁（ちゅうさい）に入って難に遭ったガラエスス老もいた。彼はすぐれて義侠心（ぎきょうしん）の篤（あつ）い人物で、かつてのアウソニアの地で第一の長者（ちょうじゃ）だった。彼には姦（かしま）しく鳴く五つの羊の群れがあり、また夕ごとに五つの牛の群れが牛小屋に帰ってきた。百の鋤（すき）が彼の畑を耕していた。(7-531-539)

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かくて殺戮（さつりく）が原野にひろがり、マルス神が勝敗の帰趨（きすう）を決めかねると、女神（アレクト）は、ようやく与えられた仕事を終えた。今や戦闘は血しぶきを上げて酣（たけなわ）に至り、兵刃（へいとやいばが）相交（あいまじ）わって死の行列が始まった。そこで女神は西涯（せいがい：ヘスペリウム）（イタリア）を離れた。そして大気を飛んで天（オリュムプス）のユノのもとに行き、勝ち誇り、上（うわ）ずった声で話しかけた。「どうですか。悲しい戦争で不和を作ってさしあげましたよ。これでもう今さら、友情だ、同盟だ、などと言っても、元へはもどりませぬ。

なにしろアウソニウス（イタリア）の血をたっぷりとテウクリ人どもに塗ってやったのですからね。あなたさえおよろしければ、もっと続けてよござんすよ。噂（うわさ）を流して隣の町々を戦争に引きずり込んでやりましょうか。狂気のマルス神崇拝に火をつけて、国中から加勢を呼んでやりましょうか。国土（こくど）一帯（いったい）を殺戮の巷（ちまた）に変えてしまいましょうよ」。(7-540-551)

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これに答えてユノは言った、「恐怖（きょうふ：テロル）と欺瞞（ぎまん）はもうよい。戦争はすでに始まっている。いやはや、双方（そうほう）入り乱れてひどい乱闘になったものじゃ。ほんの偶然が、刃（やいば）に血しぶきを浴びせたのじゃ。ウェヌス（女神）の子（アエネアス）とラティヌス王はこうして縁を結び、結婚歌（けっこんか：ヒュメナエイという）を歌えばよい。

じゃが、おまえがこんな高い上空にうろうろしていると、神々の父（ユピテル）のお目に止まるかも知れぬ。天（オリュムプス）の頂（いただき）の支配者はおまえを好みたまわぬ。さっさと帰れ。もしほかにまだやり残した仕事があるなら、こちらでやっておく」。

サトウルヌスの御娘（みむすめ）がかく声を張りあげると、悪鬼（アレクト）は翼を広げた。蛇が翼に絡（から）まり、ぎいと音をたてた。彼女は哭泣（こくきゅう）川（コキュトウス）の故郷を目指し、険しい山々のつらなる大地を離れた。(7-552-562)

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イタリアの中央、そびえる山々のふもとに、ひとつの場所がある。天下に名高いその土地の名は、アムサンクトウスの峪（たに）という。両側の山に広がる聖林に密生（みっせい）する黒い葉叢（はむら）が、びっしりと谷を覆（おお）っている。そしてその渓（たに）を縫うように、岩を砕き渦巻く流れが、囂々（ごうごう）と音をたてて流れている。

そこに恐ろしい洞窟（どうくつ）がある。そこには残忍な閻魔大王（えんまだいおう：ディス）の呼吸孔（こきゅうこう）があって、アケロン川が迸（ほとばし）り出るあたりに、毒気（どくけ）を吐き出す巨大な窪（くぼ）みがぽっかりと口を開けている。女鬼（おんなおに：エリニュス：アレクト）は、ここでおぞましいその存在を消した。そして天地は彼女の害悪から開放された。(7-563-571)

2015/11/21 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会