７（１７）三番目の標的

　７（１７）三番目の標的(ひょうてき)

○（７－１７）アレクトの三つ目の標的イウルスの災い
(7-475)(7-476)(7-477)(7-478)(7-479)(7-480)(7-481)(7-482)
こうしてトウルヌスがルトウリ人の心を煽（あお）っている間に、ステュクス（冥界）の翼をつけたアレクトは、新手（あらて）の計画を抱（いだ）いてテウクリ人の陣営を目指した。

この時、麗（うるわ）しき少年イウルス（アスカニウス）は、川岸に罠をしかけ、獣を追い回し、狩に余念（よねん）がなかった。この姿を観察した哭泣（こくきゅう）川（コキュトウス）の乙女（おとめ：アレクト）は、突然猟犬（りょうけん）たちの心を狂わせた。犬たちは嗅（か）ぎ覚えのある臭いを鼻に感じ、一匹の牝鹿を追い始めた。そしてこのことが、一連の災いの最初の発端（ほったん）となった。このことが田園の民を戦争に駆り立てていったのだった。(7-475-482)

(7-483)(7-484)(7-485)(7-486)(7-487)(7-488)(7-489)(7-490)
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それは堂々とした姿の牝鹿（めすじか）だった。その額（ひたい）には巨大な角（つの）がそびえていた。それはテュルルス家（け）の少年たちが母親の乳房から無理矢理（むりやり）奪ってきて、父親のテュルルスと一緒に育てた鹿だった。

そしてこのテュルルスなる人は、王室御料の家畜を預かる人物で、広大な原野の管理が彼に一任されていた。鹿の面倒（めんどう）はすべて、少年たちの妹シルウイアが見ていた。鹿は彼女によく馴（な）れ、その命令には何でも従った。彼女はその角をかわいい花輪で飾り、毛並みを整え、清らかな泉で身体を洗ってやった。

鹿は平気で自分を彼女の手にゆだねていた。そして主人の食卓に慣れ、森を徘徊（はいかい）した後には、いつも懐かしいわが家（や）に帰ってきた。鹿は、どんなに夜遅くなっても、必ず家に戻ってきた。(7-483-492)

(7-493)(7-494)(7-495)(7-496)(7-497)(7-498)(7-499)
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この鹿が遠くをさすらっているところを、狩をするイウルスの凶暴な犬たちが追いかけていった。川の流れを下っていた鹿は、ちょうどその時、暑気（しょき）を払うために緑の岸に上がった。

アスカニウスは、大きな獲物の期待に胸をふくらませ、きりきりと弓を引いて矢を放った。手元は少々狂ったものの、神の助け、矢はぐんと伸びて、鹿の脇腹の下腹部にぶすりと音を立てて突き刺さった。

傷を受けた四足獣（よつあしじゅう：クワドリペスという）は、ようやく懐（なつ）かしいわが家（や）に逃げ帰った。うめきつつ、獣は自分の小屋に入り、血を流しながら悲しそうな泣き声をあげた。そして、まるで助けを呼ぶかのように、屋敷中を鳴き声で満たした。(7-493-502)

(7-503)(7-504)(7-505)(7-506)(7-507)(7-508)(7-509)(7-510)
最初に気づいたのはシルウイアだった。彼女は手のひらでしきりに二の腕を叩きながら助けを呼んだ。彼女が呼び集めたのは無骨（ぶこつ）な田舎者たちだった。彼らは、沈黙の森の中にひそむ災いの悪鬼（あっき：アレクト）の誘導で、たちまち大勢集まってきた。

ある者は先端の尖（とが）った焼き杭（ぐい）を持っていた。別の者は節（ふし）くれだった木の幹（みき）をそのままかついでいた。皆怒りに駆られ、とりあえず目についたものは、そのまま武器として持参してきたのだった。テュルルスが隊列を整えた。彼自身、折しも、樫（かし）の木に楔（くさび）を打ち込んで四つに割ろうとしていたところだった。手に斧を掴んだまま、激しく呼吸していた。(7-503-510)

(7-511)(7-512)(7-513)(7-514)(7-515)(7-516)(7-517)
(7-518)(7-519)(7-520)(7-521)(7-522)
残忍な女神（アレクト）は、この機会を逃（のが）さなかった。彼女は高台（たかだい）から馬小屋のそびえる屋根に舞い降りた。そして破風（はふ）の頂（いただき）に立ち、反（そ）った角笛（つのぶえ：コルヌ）で牧人（まきびと）の合図を吹き鳴らした。地獄の音が朗々と鳴り渡った。するとたちまち聖林全体が震えた。

そして深い森の隅々まで、音は伸びて合図を伝えた。遠くトリウイアの湖（みずうみ：ネミ湖）でもそれは聞こえた。硫黄（いおう）で白く濁ったナル川の畔（ほとり）でもその音は聞こえた。ウエリヌスの泉でも人はその音を聞いた。

母は不安にかられて息子を胸に抱きしめた。だが、牧笛（まきぶえ：ブキナ）が合図（あいず）を送るや否や、気性（きしょう）の荒い農民たちは、槍をつかんで駆け出していた。彼らは至るところから集まってきた。トロヤの若者たちも同じだった。彼らは陣営の門を開いて、続々とアスカニウスの救援に赴いた。(7-511-522)

2015/11/21 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会