６（１９）浄土(じょうど)の親子

○（６−１９）浄土のアンキセス (6-679)(6-680)(6-681)(6-682)(6-683)(6-684)(6-685)(6-686) その頃、父なるアンキセスは緑の盆地（ぼんち）の奥処（おくどころ：オクカ）に陣取って、今はここに蟄居（ちっきょ）しつつ時が来れば地上の光を目指して旅立つ亡者（もうじゃ）たちの検分（けんぶん）に余念（よねん）がなかった。彼はこの時たまたま仲間全員の点呼（てんこ）を行っていた。彼は大切な末裔の子たち一人一人（ひとりびとり）を丁寧（ていねい）に調べあげ、この勇士（ゆうし）たちの運命（さだめ）と将来（幸運の女神（フォルトウナ））を見定め、その品行や手腕（しゅわん）を吟味（ぎんみ）して回った。 すると彼の目に、草地（くさち）を駆けながらこちらに向かってくるアエネアスの姿が飛び込んできた。すぐに彼は喜びをあらわにして両手をさしだした。彼の頬を涙が流れ、口からは言葉が溢（あふ）れた。(6-679-686) (6-687)(6-688)(6-689)(6-690)(6-691)(6-692)(6-693)(6-694) 「とうとう来たか。いかに険（けわ）しい道のりじゃったことか。が、孝行息子（こうこうむすこ）のおまえはそれを乗り越えた。わが子よ、おまえの顔が見られるとはのう。おまえのその声を聞き、それに答えることができるとはのう。じゃがわしはいつも心にこの瞬間のことを思い描いていた。こうなることを信じて、日数を数えておった。ああわしの思うたとおりじゃった。 じゃが、わがもとへ至ったおまえは、どんな陸路を越え、いかなる海を渡ったことか。いかなる危険がおまえを苦しめたことか。またあのリビュアの王国（ディドのこと）がおまえの足をひっぱるのではないかと、わしはどれほど心配したことか」。(6-687-694) (6-695)(6-696)(6-697)(6-698)(6-699)(6-700)(6-701)(6-702) アエネアスはこれに答えた、「父上、あなたの悲しいお姿が何度もわたしの目の前に現われてわたしをここまで導いて下さったのです。艦隊はテュレヌス（エルトリア）の海に停泊中です。さ、お手を取らせてください。父上、あなたを抱かせてください。逃げないで」。ここまで言うと、彼はどっと涙にくれ、顔をぐしょぐしょに濡らした。 彼は三度（みたび）、腕で父の首を抱こうとした。しかし三度とも、幻影は彼の手から逃（のが）れ去った。彼は空（くう）をつかんだだけだった。それは軽い風のようだった。また、翼（よく）を振って飛び去る夢にさも似ていた(2-795)。(6-695-702) (6-703)(6-704)(6-705)(6-706)(6-707)(6-708)(6-709) (6-710)(6-711)(6-712) この時アエネアスは渓谷（けいこく）の奥の孤立した森に気づいた。その木々（きぎ）の茂みはざわざわと音をたてていた。そこには静かに暮らす人々の住居のほとりを流れ往（ゆ）く忘却川（ぼうきゃくかわ：レテ）の水面（みなも）が見えた。そしてその川の周辺には、実にさまざまな一族や人々の群れがあつまり、忙しく動き回っていた。 そのさまはまるで穏（おだ）やかな夏の日に、牧草地（ぼくそうち）のとりどりの色の花に集まってくる蜜蜂のようだった。この無数の蜂の大群は純白（じゅんぱく）の百合（ゆり）の上にも押し寄せ、野原全体がざわざわとどよめく。 アエネアスは突然目にしたこの光景に驚き、その理由を尋（たず）ねた。彼は何も知らなかった。向こうのあの川は何で、どんな人々がこんなに大勢で川岸（かわぎし）を満たしているのか、彼は問わずにはいられなかった。(6-703-712)

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2015/11/16 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会