６（１５）ディドに無視された

○（６−１５）悲嘆ヶ原のディド (6-450)(6-451)(6-452)(6-453)(6-454)(6-455) 彼らに混じってあのフェニキア女（ディド）が歩いていた。まだ傷跡（きずあと）も生々しく、この大きな森の中を彷徨っていた。トロヤの英雄（えいゆう：ヘロス：アエネアス）は彼女のすぐそばに立っていた。かれは暗い影の中にいる彼女を見た。それはまるで、群雲（むらくも）の中にのぼる新月（しんげつ）を見たか、あるいは見たような気がするだけなのかと迷うほど朧（おぼろ）な姿だった。ふいに心に甘い懐かしさが溢（あふ）れ、彼ははらはらと涙をこぼしながらこう語りかけた。(6-450-455) (99-456)(99-457)(99-458)(99-459)(99-460)(99-461)(99-462)(99-463) (99-464)(99-465)(99-466) かわいそうなディド、ではあなたが亡（な）くなったという報（しら）せは本当だったのか。あなたが剣で最後（さいご）をとげたいうのは、本当だったのか。わたしがあなたを死なせたのだろうか。でも、星々にかけて誓う。天上の神々にかけて誓う。またこの黄泉路（よみじ）に信義があるのならそれにもかけよう。 わたしは、好きこのんで、女王よ、あなたの岸辺（きしべ）を離れたのではない。あれは神々の御命令だったのだ。そしてそのために今もわたしはこうして影たちのところを旅し続けねばならぬのだ。荒野を通り、底なしの夜を潜（くぐ）りながら。神々の御命令にはとても逆らうことができなかったのだ。 だが、わたしが去ることがあなたにはそんなにも辛（つら）いことだったとは、わたしは想像できなかった。どうか歩みを止めてくれないか。その姿をわたしの目の前から消さないでくれないか。君は誰から逃げてゆくのだ。これが君に話す最後の言葉になる運命（さだめ）なのだぞ。(99-456-466) (6-467)(6-468)(6-469)(6-470)(6-471)(6-472)(6-473) (6-474)(6-475)(6-476) こんな言葉で、アエネアスは彼女の魂を慰めようとした。しかし彼女の顔は怒りに燃え、その恐ろしい目つきは全く変わらなかった。アエネアスの顔は涙で溢れた。彼女は目線（めせん）を地面（じめん）に向けたまま、顔を合わせようともしなかった。その様子はまるで固い火打ち石のよう、マルペスス山（ロドス島にあり、白い大理石の産地で知られる）の絶壁（ぜっぺき）のようであった。 そしてついに彼女は邪険な態度を変えず、身を翻（ひるがえ）して小暗い森の中へ逃げ込んでいった。するとそこには昔の彼女の夫シュカエウス(1-352)がいて、彼女の苦しみに応（こた）え、彼女と睦（むつ）まじく愛の言葉を交わした。アエネアスは、この酷（むご）い顛末（てんまつ）にひどく心打たれた。とめどなく溢れる涙にかまわず、彼は長いことそこに立っていた。心にあわれを抱きつつ、彼は去りゆく彼女を見送った。(6-467-476)

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2015/11/15 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会