６（１２）舵手(だしゅ)パリヌルスの霊

○（６−１２）舵手のパリヌルス「遺骸の場所はウェリニの港」 (6-337)(6-338)(6-339)(6-340)(6-341)(6-342)(6-343) (6-344)(6-345)(6-346) この時、舵手（だしゅ）のパリヌルスがこちらへやってきた。彼はリビュア航路で星を観察中に艫（とも：船尾）から波間（なみま）に投げ出されたのであった(5-861)。大勢の陰に隠れて見えにくかったが、彼は悲しんでいる様子だった。アエネアスの方から声をかけた、「おいパリヌルス、神々のどなたがおまえを捉（つか）まえて海の真ん中に沈めたのだ。言ってくれ、頼む。 どうやらアポロ御神はまことしやかな嘘でわしを欺（あざむ）きたもうたようだ。偽りなど決して述べたもうたことのない御神だがな。その御神託（ごしんたく）は、おまえが無事に海原（うなばら）を越え、アウソニイの土地に至るべしというものであった。だが、これがその御神託の結末なのかい」。(6-337-346) (6-347)(6-348)(6-349)(6-350)(6-351)(6-352)(6-353)(6-354) (6-355)(6-356)(6-357)(6-358)(6-359)(6-360)(6-361) するとパリヌルスは答えた、「アポロの鼎（かなえ：コルティナ）(3-92)があなたを欺いたのではありません。わが棟梁（とうりょう：ドウクス）のアンキセスの御子よ。神がわたしを海に沈めたもうあたのではないのです。たまたま何か大きな力が働いて、舵棒がもぎとられたのです。わたしはしっかりとそれを掴（つか）んで、航路を導いていたのですが、いきなりもろとも放り出されてしまったのです。 荒海に誓って申し上げますが、わたしは自分のことなど少しも心配しませんでした。それよりあなたの御船（おふね）の損傷が気がかりでした。第一、航海長（こうかいちょう：マギステル）がいなくなればこの大波をどうやって凌（しの）げましょう。沈没の危険が大きいのですもの。 南風（ノトウス）は、恐ろしい三夜（さんや）にわたり、広大な海を荒らしつつわたしを弄（もてあそ）びました。やっと四日目（よっかめ）、わたしは波に持ち上げられながらイタリアの陸地を目にしました。そして少しずつ岸に向けて泳いでいきました。わたしは、もうほとんど危険な水域を越えたと思いました。 しかしそこでわたしは野蛮な土人どもに襲われたのです。わたしの体はびしょ濡れの服で重くなっていました。わたしは手を鉤（かぎ）のように曲げて山のような岩のざらざらした天辺（てっぺん）にしがみつきました。彼らは剣で攻撃してきました。無知の輩（やから）ですからわたしを良い獲物だと思ったのでしょう。(6-347-361) (6-362)(6-363)(6-364)(6-365)(6-366)(6-367)(6-368) (6-369)(6-370)(6-371) こうして今わたしの体は波間に浮かんでいるのです。風がわたしを浜辺へ打ち寄せています。ああ、天の楽しい光と空気にかけて、御父上とイウルス（アスカニウス）の希望とにかけてお頼み申します。わたしをここから出してください。最強の王よ、この苦しみから救ってください。どうぞこのわたしの死骸に土をかけてください。あなたにはその力があります。ウェリニの港を探索してください。 あるいはまた、もし道があるのなら、あなたの御母堂様の女神（めがみ：ヒメガミ）様があなたに道をお示したまうなら、あわれなわたしに右手をさしのべてやってください。そしてあなたとご一緒にわたしをこの川波の向こうへ連れていってください。このステュクス（冥界の川）の瀞（とろ）を渡れるのなら、さだめし神々の御加護のもとにいますものと信じます。わたしはせめて安らかな場所で、死をまっとうしたいのです」。(6-362-371) (6-372)(6-373)(6-374)(6-375)(6-376)(6-377)(6-378) (6-379)(6-380)(6-381)(6-382)(6-383) 彼がこう言い終えると、予言者の巫女が言葉をはさんだ、「パリヌルスよ、どこからそんな大それた願いを拾（ひろ）ってきたか。埋葬（まいそう）されていないおまえが、ステュクス（冥界の川）の水や慈女鬼（じじょき：エウメニス）たちの仕切る川を望むなど僭越（せんえつ）至極（しごく）じゃ。勝手に岸に近づくことはならぬ。 神々のお仕置きを懇願で曲げられるなどと思ってはならぬ。それよりこれからわしの言うことをよくう聞き、おまえの不運の慰（なぐさ）めとするがよい。広範囲にわたる町々の住民たちが、天の異変にうながされて集まり、おまえの骨のお清めをしてくれよう。墓を築き、おまえを祀（まつ）ってくれよう。その場所は永遠にパリヌルスの名で呼ばれることになろうよ」。この言葉にようやくパリヌルスの憂（うれ）いは溶けた。彼はしばし心の痛みを忘れ、自分の名のつく土地を嬉（うれ）しく思った。(6-372-383)

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2015/11/15 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会