５（６）弓試合

　５（６）弓試合

○（５－６）奉納試合（弓試合）
(5-485)(5-486)(5-487)(5-488)(5-489)(5-490)(5-491)
(5-492)(5-493)(5-494)
続いてアエネアスは腕に覚えの者どもを速矢（そくや）の試合に誘い、賞品を告げた。そして巨大な手でセレストウス(4-295)の船の帆柱（ほばしら：マスト）を立て、綱（つな）に飛ぶ鳩をむすび、それを的に矢を射るべく、高い帆柱の天辺（てっぺん）から吊るした。

大勢の武士（もののふ）たちが集い、青銅の兜に籤（くじ）が入った。大歓声の中で一番目に出たのは、ヒュルタクスの子ヒポコオンの籤だった。二番目に出たのは、先程（さきほど）の船試合で入賞したムネステウスの籤で、彼は青々としたオリーブの枝を頭に巻いていた。(5-485-494)

(5-495)(5-496)(5-497)(5-498)(5-499)(5-500)(5-501)
(5-502)(5-503)(5-504)(5-505)(5-506)
三番目にはエウリュティオンの籤が出てきた。この人は、音に聞こえた名手パンダルスの兄弟だった。その昔、盟約破棄を唆（そそのか）されて、アキウイ（ギリシャ）勢の真ん中に戦闘の第一矢（だいいっし）を射たもうたのは、パンダルスよ、ほかならぬあなただ。兜の底に残っていた最後の籤はアケステス王のものだった。王は自ら敢（あ）えて若者に交じって試合に挑（いど）もうとしていた。

さておのおのは自分の強弓（ごうきゅう）を力いっぱい撓（たわ）めた。そして思い思いの矢を箙（えびら：矢を入れて背に負う武具）から取り出した。最初にヒュルタクスの子（ヒポコオン）の矢が高鳴る弓弦（ゆづる）を離れ、流れる風を切り裂いて空中を飛んだ。矢は帆柱の正面を射て、木に深く突き刺さった。帆柱が揺れ、驚いた鳩があわてて羽をふるわせた。至るところからやんやの拍手が沸きあがった。(5-495-506)

(5-507)(5-508)(5-509)(5-510)(5-511)(5-512)(5-513)
(5-514)(5-515)(5-516)(5-517)(5-518)
次に勇猛なムネステウスが弓に矢をつがえ、高所を狙いさだめた。彼は目線と鏃（やじり）とをぴたりと獲物に向けた。しかし残念なことに矢は鳥には当らず、鳥の足を高い柱に結びつけていた亜麻綱と結び目とを切断した。鳥は南風（ノトウス）に向かい黒雲の中へ逃げていった。

するとすばやく、すでに矢を弓につがえてきりりと引き絞っていたエウリュティオンが、心の中で兄（パンダルス）に祈念して、ひょうと放った。矢はあやまたず、すでに嬉しげに虚空（こくう）を飛びながら、羽を鳴らして黒雲の下に到達していた鳩を射抜いた。鳩は命を蒼天（そうてん：あおぞら）に残し、骸（むくろ）となって落下した。そして身を貫く矢を、地上に返却した。(5-507-518)

(5-519)(5-520)(5-521)(5-522)(5-523)(5-524)(5-525)
(5-526)(5-527)(5-528)
さて、優勝の可能性はなくなったが、アケステス王がまだひとり残っていた。彼は高い天に向けて見事な一矢（いっし）を放った。名人の腕の中で弓がうなった。すると突然、皆の目の前で、未来の出来事を暗示する摩訶（まか）不思議なことが起きた。

これは、後に現実となってから、予言者たちが震え声で語る出来事となった（アケステス王のセゲスタの町建設をさすとも言われるが不明。ウイリアムズは、ローマ時代の読者には不明のことではなかったに違いないと注記している（5-523））。すなわち、矢が大空を飛びながら燃え上がり、航跡を描いた後、風の中で燃えつきて消えた。それはちょうど、天から剥（は）がれ落ちた星が、飛びながら髪の毛のような尾を引くさまに似ていた。(5-519-528)

(5-529)(5-530)(5-531)(5-532)(5-533)(5-534)(5-535)
(5-536)(5-537)(5-538)
トリナクリ（シチリア）とテウクリ（トロヤ）の武士（もののふ）たちは、あっけにとられ、同時に天上の神々に祈った。アエネアス大王もこの瑞祥（ずいしょう）を認め、幸（さち）につつまれたアケステス王を抱きしめると、贈り物を次々と運ばせて言った、「これらを納めてくだされ、父なるおかた。天（オリュムプス）の神々の大王があなたにかかる不思議を示したまい、あなたを誉れの座に導きたもうたのです。

この浮き彫りの入った混酒器（クラテル）もお納めくだされ。これは老父アンキセスの愛用品だったものです。これは、過ぎし日、トラキア王キッセウス（プリアムス王の妃ヘクバの父）が、ご自身の形見（かたみ）にと、また友情のしるしにと、わが父アンキセスへお贈りくだされたものなのです」。(5-529-538)

(5-539)(5-540)(5-541)(5-542)(5-543)(5-544)
彼はこう言いながら王のこめかみ（耳の上で、目じりのわきの部分）に緑なす月桂冠（ラウルス）を巻き、アケステス王を、他に優（まさ）る第一の勝利者と宣言した。善良なエウリュティオンは、この特別待遇に対し、少しの不満も抱かなかった。実際、高天（たかま）から鳥を射落としたのは彼にほかならなかったのだが。彼に続いては、綱を切断した人が褒賞を受けた。最後に、速矢を帆柱に立てた者が褒美を貰った。(5-539-544)

2015/11/11 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会