５（１５）航海長の失踪

○（５−１５）航海長パリヌルスの失踪 (5-827)(5-828)(5-829)(5-830)(5-831)(5-832)(5-833)(5-834) 父なるアエネアスの定まらぬ心は、いつしか輝かしい喜びに駆り立てられていた。彼は、至急（しきゅう）、すべての帆柱（マスト）を立て、帆桁（ほげた）に帆を張るよう命じた。全艦一斉（いっせい）に帆布（はんぷ）の足を固定し、左舷に向け、右舷に向け、同様に帆に風を孕（はら）ませる。各艦一斉に高い帆桁の角（つの：先端：コルヌ）を（風に対し）斜めに傾け、また反対の角度に傾ける。こうして風を操りながら、艦隊は進む。舳艫（ジクロ：へさきとせんび）相ふくみつつ船団は、先頭に立つパリヌルスに従っていた。他艦は皆、彼の艦にい追随（ついずい）するよう命じられていた。(5-827-834) (5-835)(5-836)(5-837)(5-838)(5-839)(5-840)(5-841)(5-842) この時、すでに湿った夜の女王は、天空の半ばに達していた。水夫たちは、櫂の下、固いベンチに身体をのばし、四肢を、おだやかな安らぎに浸（ひた）していた。すると軽（かろ）やかに、睡眠神（ソムヌス）が星座から大気を滑り降り、漆黒（しっこく）の闇を切り裂き、影を切断し、パリヌルスよ、あなたを狙い、何の咎（とが）もないあなたに、悲しい眠気（ねむけ）を運んできた。神は高い艫（とも：船尾）に降り立つと、ポルバス（トロヤ人）の姿をとり、口（くち）からこんな言辞（げんじ）を振り撒（ま）いた。(5-835-842) (5-843)(5-844)(5-845)(5-846)(5-847)(5-848)(5-849)(5-850)(5-851) 「イアシウスの子パリヌルスよ。艦隊は海流にい乗って進んでいる。風向（かざむき）きも安定している。少し休んだらいかが。頭を横たえ、疲れた目から仕事を取り除きなさい。しばらくわしがあなたのかわりに舵（かじ）とりを引き受けよう」。パリヌルスは彼をちらと見て言った。「水面がなごやかで、潮流が落ち着いているから、見張る必要はない、と言われるか。このわたしに海という怪物を信頼しろとおっしゃるのか。アエネアスを、当てにできぬ大気にゆだねよと言われるのですか。でも一体なぜですか。これまで何度、この良い天気に騙（だま）されてきたことか」(5-843-851) (5-851)(5-852)(5-853)(5-854)(5-855)(5-856)(5-857)(5-858) (5-859)(5-860)(5-861) 彼はこう言いつつその場に踏みとどまり、舵の柄（え）をしっかり掴（つか）んで離さなかった。彼は天体から目をそらさなかった。すると神は、忘却川（ぼうきゃくかわ：冥界の川：レテ）の流れの雫（しずく）で濡れた枝を、彼の両のこめかみ（耳の上で、目じりのわきの部分）の上で振った。この雫にはステュクス川（冥界の川）のお睡眠力が宿されていた。 パリヌルスは抵抗したが無駄だった。目は集中力を失い、次第に宙（ちゅう）をさまよい始めた。気持が緩（ゆる）んで、不意に四肢から力が抜けた。神は彼の上に屈（かが）み、彼を艫（とも：船尾）の一部とともにもぎとって、舵といっしょに穏やかな波の上に投げ捨てた。彼はまっさかさまに落下しながら、空しく仲間たちの名を呼び続けた。翼ある神は飛び去って、薄い空中（くうちゅう）へ消えた。(5-843-861) (5-862)(5-863)(5-864)(5-865)(5-866)(5-867)(5-868)(5-869) (5-870)(5-871) 艦隊は速度を緩（ゆる）めることなく、安全に洋上（ようじょう）の航路を保っていた。そして父なるネプトウヌスに保障された船団は、不安なく進み、早くもシレネス（海の怪物）の岩礁（がんしょう）にさしかかった。そこはかつては遭難者の白い骨で埋まった難所であったが、今は遠くで岩に砕ける潮がうつろな響きをたてているだけであった。 父なるアエネアスは、いつのまにか航海長（マギステル：パリヌルス）がいなくなり、船が進路をはずれて彷徨（さまよ）っているのに気づいた。そこで彼自ら、夜の潮の中で、船の航路を修正した。彼は友人の災難に心を打ちのめされた。そしてしきりに嘆息（たんそく）して言った、「ああ、君は、空があまりに美しく、波があまりに静かなため、油断したのか。パリヌルスよ、君は異国の砂浜に、埋葬されずに横たわるのか」。(5-862-871)

（完）

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2015/11/12 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
2016/10/19（次へのリンク先変更）