５（１４）女神と海神

　５（１４）女神と海神

○（５－１４）女神ウェヌスと海神ネプトウヌス
(5-779)(5-780)(5-781)(5-782)(5-783)(5-784)(5-785)
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この頃、女神ウェヌスは心痛（しんつう）に苛（さいな）まれ、ネプトウヌスに話しかけて胸中（きょうちゅう）の思いを吐露（とろ）していた。「ユノの怒りは止（とど）まるところを知りません。あの女神の御心を安んじ奉（たてまつ）ることは不可能とも思えます。それで、ネプトウヌスよ、わたしは、無理なことだとは承知していても、お願いせざるを得ないのです。

ほんとうにあの女神には、長い歳月をかけた願掛けも、どんなに心を込めたご奉仕も、まったく通用しないのです。それどころかあのかたは、ユピテルのご命令や運命（さだめ）の力にも、決して怯（ひる）んだり黙ったりなさいません。あのかたは恐ろしい憎しみからプリギュアの民を根こそぎになさいまして、その都を壊滅させてしまいました。

それにも飽き足らず、トロヤの残党を追いかけて、とことん虐待（ぎゃくたい）して止（や）まないのです。女神は滅亡した町の灰や骨にまで、追及の御手（みて）を緩（ゆる）めたまわぬのです。この執念深さの訳（わけは女神ごご本人にしかわかりませんわ。(5-779-788)

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あなたもご覧になりましたわね。このあいだも女神はリビュアの沖でいきなり巨大な波の山をお起こしになりました(1-70)。海と空がひっくり返るほどの大騒動でした。あれは、アエオルスの嵐をそそのかしてやらせたのです。結果は大事には至りませんでしたが、でも、あのかたは大胆にもそんなことを、あなたの王国（海）でなさったのです。

今度もまた女神は、トロヤの母たちを悪の道へ誘惑して船団を燃やしてくれたではありませんか。ひどいことです。艦隊がなくなったため、未知の土地に留まらざるを得ない人たちも出てしまいました。こうなったからには、お力におすがりするほかはありませんわ。どうぞ、航海中はあの子たちの帆を安全にお導きくださいませ。あの子たちをラウレンス（ラティウム）のテュブリス川まで届けてやってくださいませ。

このことは、もう決まったことのはずなのですが、くれぐれもどうか宜（よろ）しくお願い申し上げます。運命の女神（パルカ）たちも城壁を叶（かな）えてくれるはずですが」。(5-789-798)

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深海の管理者、サトウルヌスの御子（ネプトウヌス）はこれに答えて言った、「キュテラの女神様（ひめがみさま：ウェヌス）には、わが領土（海）に信を置いていただかねばなりません。ここは女神様の生まれ故郷ですからな。わしとしてもこれまで、手を拱（こまね）いていたわけではありませぬ。これまでにも屡（しばしば）狂乱をしずめ、天と海との大騒動を治めて参りました(1-147)。

陸の上でも同様に、あなたのアエネアスには力になってやりましたがな。クサントウスとシモイスの両川（ふたつのかわ）がその証人です。アキレスがトロヤ軍を壁際（かべぎわ）に追い込み、大勢の兵士が討たれると、死骸に満ちた川たちが悲鳴をあげ、クサントウス川など、もはや流れることもできず、海への道を失いかけていました。

この時、強力なペレウスの子（アキレス）と相対（あいたい）したアエネアスは、神々の御加護の点でも実力の点でも、とうてい相手には敵（かな）いませなんだ。それをわしが雲に包（くる）んで助けてあげたのですぞ（イリアス20-318）。わしはそもそも、わが手で建設したトロヤの城壁を徹底的に壊（こわ）すつもりでおりました。なにせあの町は約束を守りませぬのでな。しかし、ご子息への気持は、今もあの頃と少しも変わっておりません。

ご安心召されよ。女神様のご子息は、女神様のお望みどおり、安全にアウエルヌスの港へ着くことでござろう。ただひとり、渦に巻き込まれて失（う）せる者が出ます。その者をお捜しになるやもしれませぬが、その者は、皆の身代わりに犠牲になるのです」。(5-799-815)

(5-816)(5-817)(5-818)(5-819)(5-820)(5-821)(5-822)(5-823)
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彼がこんな言葉で慰めると女神の心も和（なご）んだ。そこで海祖（ネプトウヌス）は、馬に黄金の馬具を繋ぎ、嘶（いなな）き泡吹く口に轡（くつわ）をつけ、両手で力一杯、手綱（たづな）を放った。群青色（ぐんじょういろ）の戦車は軽快に水面（みなも）を飛んでいった。すると波も鎮（しず）まり、からからと音立てて回転する車の下で、山なす海は凪（な）ぎ、広大な天空を覆っていた雲も退散した。

この時、海祖の眷属（けんぞく）たちが姿を現した。巨大な鯨（くじら）ども、グラウス老の一族、イノの子のパラエモン、快速のトリトン（海祖の子）たち、ポルクス（ゴルゴの父）の率いる群れ全体。左側にはテティス（アキレスの母）、メリテ（以下老海神（ネレウス）の娘たち）、乙女（おとめ）のパノペア。そしてニサエエ、スピオ、タリア、キュモドケ。(5-816-826)

2015/11/12 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会