２（１９）父アンキセスの強情

 
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わたしの目の前に、火の中に沈むイリウム（トロヤの首都イリオン）の光景（こうけい）がひろがっていました。ネプトウニア（ネプトウヌスを建設神とする）とも呼ばれたトロヤが、土台から覆（くつがえ）ろうとしていました。

それまるで、農夫たちが、よってたかって、高い山の上に生（は）えた太古（たいこ）のトリネコの木を、斧で切り倒そうとしている有様にも見えました。諸刃（もろは）の斧の打撃が幾度も、幾度も、打ち込まれていきます。

さしもの堅木も葉をふるわせ、梢（こずえ）を揺らし始めます。そして次第（しだい）に傷は深くなり、ついには堪（こら）えきれず、最後のうめき声を発して、尾根から引き抜かれるように倒れて転がります。

わたしは、外へ下りていきました。そして神のお導きに従って、炎と敵の間を通り抜けていきました。槍はわたしを避け、火も退いていきました。(2-624-633)


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ようやくわたしは、父の館の玄関に辿（たど）り着きました。ところが、この古風な建物の中へ入り、誰よりも真っ先に父上を高い山へ移し参らせんと、心ははやったのですが、父は説得に応じず、滅びゆくトロヤをあとに命（いのち）ながらえるなど、まっぴらごめん、亡命（ぼうめい）する気など毛頭（もうとう）ないと、にべもありませんでした。

『おまえらは、まだ血気（けっき）盛んなこれからの人間じゃ』と彼は言いました。『足腰（あしこし）もしっかりしておる。おまえらは、逃げねばならん。(2-634-640)


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わしの事はな、天上（てんじょう）の神々が、命を救いたまうおつもりであったならば、この館とて守ってくださったはずじゃ。わしはトロヤの陥落（かんらく）をいちど味わったし、町が奪取されても生き延びてきた身じゃ。これでわしには十分じゃ。

わしにはもう、身動きすることがつらいのじゃよ。こんな老いぼれには、さっさと別れを告げて、行け。わしはこの手で、死出の旅路をさぐってみる。敵もあわれんでくれようし、わしの物具（ぶつぐ：モノノグ）など喜んで取っていこう。墓に葬ってもらえぬなど、わしには何でもない。

わしは、神々と人間の父（ユピテル：ゼウス）の雷霆（らいてい：イカズチ）の息吹き
（いぶき）であおられ、火で打たれてから（ウェヌスとの仲を自慢したため大神に罰せられた）というもの、長年（ながねん）、神々に憎まれた役立たずとして生きてきたのじゃ』。(2-641-649)


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こんなふうに頑（かたく）なに言い張り、父は一向（いっこう）折れようとはしません。われわれは手を焼きました。わたしの妻のクレウサも、（息子の）アスカニウスも、家中の者が、父があまりの一徹（いってつ）さですべてを駄目（だめ）にし、運命の重圧に負けてしまわないように、涙を流して説得しました。

しかし父は、にべもなくわれわれの説得を拒（こば）み続け、いっかな自分の居場所から動こうとしませんでした。やむなくわたしは、また戦場へ戻ることにしました。かくなる上は、やむを得ぬ、死あるのみと、思い定めました。もはや万策（ばんさく）尽（つ）き、幸運（こううん：フォルトウナ）に見放（みはな）されたと思いました。(2-650-656)


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『ならば、父上、わたしに、あなたを捨てて去れとおっしゃるのですか。どうしてそんな心無（こころな）いお言葉が、そのお口から出るのです。神々が、これほどの町に何も残らぬことを望みたまうとでもお思いか。滅びゆくトロヤとともにあなたも、一族も巻き添えにして、平然としておられるのですか。

それならば、それは死出の旅路のはじまりです。プリアムスの血をたっぷりと浴びたピュルルス（ネオプトレムス（アキレスの子））がまもなくこちらに駆けつけます。あ奴（やつ）は、父の前で子を殺し、祭壇の前で父を殺しました。(2-657-663)


(2-664)(2-665)(2-666)(2-667)(2-668)(2-669)(2-670)
なつかしい母上（ウェヌス：ギリシャ神の名はアプロディテ）、あなたが槍と火のあいだを、わたしをここまで導きたもうたのは、かかる結末（けつまつ）を見せるためなのですか。館の奥を敵の手にゆだね、アスカニウスも父上も、クレウサまでもろともに、お互いの血にまみれながら屠（ほふ）られてゆくのを、わたしに見ろとおっしゃるのですか。

槍を持て、武士（もののふ）らよ、槍じゃ。最後の光が、戦（いくさ）に敗れしわれらを呼んでいる。ダナイ人どものもとへ引き返そうぞ。こころゆくまで、戦（いくさ）をやり直そうぞ。今宵（こよい）はわれら全員、死の高い代償（だいしょう）を敵に払わせてやる』。(2-664-670)
 
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2015/10/4 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会