２（１７）ヘレネを殺そう

(2-559)(2-560)(2-561)(2-562)(2-563)(2-564)(2-565)(2-566) この時はじめて、わたしは激しい恐ろしさに襲われました。わたしはしばらく立ち尽くしました。なつかしい父の姿が浮んできました。たった今わたしは、同じ年の王が残忍な傷を受けて命をうしなうのをこの目で見たのです。 それから取り残されたクレウサ（アエネアスの妻）、荒らされたわが家（や）、幼いイウルス（アスカニウス）の運命のことが、わたしの頭を駆け抜けました。わたしはあたりをふりかえり、手勢になる者をさがしてみました。しかし誰も疲れ果て、わたしの力にはなり得ませんでした。皆、地面へ飛び降りて死んだり、傷ついた身体を火に投じたりして、散々（ちりぢり）になってしまいました。 (2-559-566) ヘレネ (2-567)(2-568)(2-569)(2-570)(2-571)(2-572)(2-573) (2-574)(2-575)(2-576) いつのまにかわたしは、ただひとりになっていました。この時、わたしはウェスタ（ゼウスの姉ヘスティア）神殿の敷居のところに隠れているひとりの女を目にしました。彼女はだまって人目につかぬところに立っていました。それはテュンダレウスの娘（むすめ：ヘレナのこと）でした。うろつきながら八方（はっぽう）を見渡すわたしの目の前で、赤々と燃える炎が、すべてを照らし出していました。 彼女は、ペルガマの落城ゆえにテウクリ（トロヤ）人を憚（はばか）り、またダナイ（ギリシャ）人の刑罰を恐れ、捨てた夫（メネラウス）の怒りを避けるべき身の上でした。トロヤと祖国の両方から女鬼（おにおんな：エリニュス）のように嫌われていました。彼女はこんなところに逃げてきて、呪われた身を祭壇に潜（ひそ）ませていたのです。彼女を見てわたしの心は燃え上がりました。失われゆく祖国を思い、復讐心が爆発しました。この屈辱（くつじょく）、晴らさずにはおくものかと思いました。(2-567-576) (2-577)(2-578)(2-579)(2-580)(2-581)(2-582)(2-583) (2-584)(2-585)(2-586)(2-587)(2-588) 『この女に、このまま無事（ぶじ）に、スパルタと祖国ミュケナエを見せろというのか。王妃（おうひ）として凱旋（がいせん）させろというのか。夫や父親の家や子供たちに会わせろというのか。この女がイリア（トロヤ）人の群集をしたがえ、プリギュアの召使いにかしづかれるのを黙って見ていろというのか。 プリアムスは剣で殺された。トロヤは燃えた。ダルダニウム（トロヤ）の岸辺は幾度も血で染まった。このままでよいわけがないではないか。女を手にかけたとて何の手柄（てがら）にもならぬ。勝敗にもまったく係わらぬ。だがこの非道（ひどう）の原因を取り除き、これをとがめておくことは、満更（まんざら）誉められぬ仕事でもない。第一おれは、復讐心を満たし、仲間の無念を晴らしたくてうずうずしている』。わたしはこんなふうに自問自答（じもんじとう）をくりかえし、心を狂わせ突進しようとしたのです。(2-577-588)

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2015/10/4 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会