２（１３）ギリシャ兵に化けて

(2-339)(2-340)(2-341)(2-342)(2-343)(2-344)(2-345)(2-346) わたしは途中、リペウスや武勇第一のエピュトウスと一緒になりました。月明（つきあ）かりですぐ集まることができたのです。ヒュパニスとデュマスもわれわれに加わりました。まだ年若い、ミュグドンの子コロエブスもやってきました。彼はたまたまトロヤに居あわせてこの難に出会ったのです。 カサンドラへの切ない愛に燃え、結婚するつもりでしたので、プリアモス王とプリギュア勢の力になることは、本望（ほんもう）だったのかもしれません。彼は不幸にも許婚（いいなずけ）のはげしい警告を無視してしまったのです。(2-339-346) (2-347)(2-348)(2-349)(2-350)(2-351)(2-352)(2-353)(2-354) わたしは皆が皆がいさぎよく戦おうとしているのを知って、彼らに話しかけました。『若者たちよ、君らの勇気ももはや役に立たぬかも知れぬ。もしわたしとともに、とことん進んでみようと思うなら、まずどんな事態が起きているのか、しっかりと見てもらいたい。 神殿にも祭壇にも、もはや国家を司（つかさど）りたまいし神々はおわしまさぬ。これより、燃ゆる都を助けに走る。いざ、乱戦の只中（ただなか）に飛び込んで、華（はな）と散らん。敗れしものに残されたただひとつの救いは、もはや救いを望まぬことだ』。(2-347-354) (2-355)(2-356)(2-357)(2-358)(2-359)(2-360) わたしの言葉は若者たちの勇猛心を掻（か）き立てました。皆、ひどい空腹に耐えかねて、霧の中であてどなく獲物を狙う狼になっていました。巣には、のどの渇いたかわいい子狼を置いてきています。われわれは槍ぶすまの中を駆け抜けました。右も左も敵だらけでした。死ぬことを疑わず、町の真ん中めざして突進しました。暗い夜の帳（とばり）がわれわれを取り巻いていました。(2-355-360) (2-361)(2-362)(2-363)(2-364)(2-365)(2-366) (2-367)(2-368)(2-369) 誰があの夜の殺戮（さつりく）を、誰があの死を、平然と語れましょう。涙などでは、とてもつぐなえる出来事ではありませんでした。長い年月世界に君臨した、古い都が倒れようとしていました。路上（ろじょう）至るところ、殺された死体が横たわっていました。家の敷地内にも、神々の聖なる寺院にも、人が倒れていました。 だが、テウクリ（トロヤ）人だけが犠牲になったのではありませんでした。われわれは負けてはいましたが、心に勇気（ゆうき：ウィルトウス）を失いませんでした。勝利者のダナイ（ギリシャ）人にもそれなりの代償を払わせてやりました。見わたすかぎり残酷な嘆きの光景が広がっていました。どちらを向いても恐怖の場面があるばかりでした。あらゆるところが死の風景に変わっていました。(2-361-369) (2-370)(2-371)(2-372)(2-373)(2-374)(2-375)(2-376)(2-377) われわれが最初にぶつかったのは、アンドロゲオスに率いられたダナイ勢の大部隊でした。この男は、われわれを味方（みかた）と勘違いし、自分から馴れ馴れしく声をかけてきました。『急がれよ、そこな方々（かたがた）。なにをそんなにぐずぐずしておられる。他の者は皆、燃える都を略奪の真最中じゃ。ペルガマ（トロヤ）の城を全部もってゆくのです。それとも今、そびゆる船から到着したばかりの方々でござるか』。思ったような返答が帰ってこないので、アンドロゲオスは、そこまで言って、敵の手に落ちたことを悟ったようです。(2-370-377) (2-378)(2-379)(2-380)(2-381)(2-382)(2-383)(2-384)(2-385) 彼は呆然（ぼうぜん）として声を留（とど）めて後ずさりしました。それはまったく、茨（いばら）の茂みの中でいきなり蛇（へび）を踏みつけて地面に立ちすくみ、蛇が怒（おこ）って、青首をふくらませて顔を上げるのを見て狼狽（ろうばい）し、急いで逃げ出す人のありさまに似ていました。アンドロゲオスは、がたがた震えながら退散していきました。 われわれは突撃し、槍先をそろえて敵を席捲（せっけん）しました。慣れない土地での戦（いくさ）が災いし、彼らはしだいに散々（チリヂリ）になり、追い詰められて討ちとられていきました。こうして最初の戦闘には幸運の女神（フォルトウナ）がこちらに微笑（ほほえ）みを送ってくれたのです。(2-378-385) (2-386)(2-387)(2-388)(2-389)(2-390)(2-391)(2-392)(2-393) この成功に気を良くしたコロエブスは、躍（おど）り上がって言いました、『なあみんな、ようやく幸運の女神（フォルトウナ）が道を示してくれた。われわれに好意をお見せになったのだ。ならばやってみよう。盾（たて）をとりかえるのだ。ダナイ（ギリシャ）勢の紋章をこちらも持とうよ。これが卑怯（ひきょう）か、勇気（ウィルトウス）か、戦（いくさ）の最中（さいちゅう）にそんな区別はつくものか。敵さんの武器をいただこうじゃないか』。 彼はこう言うと、冠毛（かんもう：ユバ）を立てたアンドロゲオスの兜（かびと）をかぶり、華麗（かれい）な紋章（もんしょう）の刻（きざ）まれた彼の盾を手にとりました。また腰にはアルギ（ギリシャ）兵の剣をつけました。(2-386-393) (2-394)(2-395)(2-396)(2-397)(2-398)(2-399)(2-400)(2-401) するとリペウスがそれをまね、次いでデュマスも同じことをしました。若者は全員、喜んでそうしたのです。皆、奪ったばかりの武器を身につけました。それから、われわれはダナイ勢と混じりあいましら。神々の御加護などもはやあてにしなかったのです。 夜の暗闇の中で、われわれは何度も戦いました。そして。数知れぬダナイ兵を冥界（めいかい：オルクス）へ送り込みました。敵は散々（チリヂリ）になり、船や岸辺（きしべ）へ逃げて身の安全を求めました。ある者は、笑止千万（しょうしせんばん）にも、巨大な木馬に戻り、またもとの胎内（たいない）へ身を隠していました。(2-394-401)

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2015/10/4 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会