１２（２２）妹、兄を見放す

○（１２−２２）ユピテルのユトウルナ (12-843)(12-844)(12-845)(12-846)(12-847)(12-848) (12-849)(12-850)(12-851)(12-852) この事が終った時、御（おん）父神（ちちがみ）の心には別の条件が残っていた。彼はユトウルナを兄の戦（いくさ）から引き上げさせる算段（さんだん）にとりかかった。羅刹（らせつ）女（め）（ディラ）たちは、邪悪な双子（ふたご）姉妹（しまい）夜叉（やしゃ）吉蔗（きっしょ）（ティシポネ：夜叉（フリア）のひとり）とアレクト）だと言われているが、実は陰湿（いんしつ）な夜の女王(7-430)は、彼女たちを産む時、同時に地獄（じごく：タルタラ）の女餓鬼（おんながき：メガエラ）を産み落としていた。 彼女たちは揃（そろ）って、とぐろ巻く蛇の髪の毛を持ち、風を切る翼を備えていた。神々の大王が恐ろしい死を下したまうか、疫病（えきびょう）を起こして懲（こ）らしめたまう時には、彼女たちがユピテルの玉座（ぎょくざ）に忍び寄り、厳（いかめ）しい王宮（おうきゅう）に姿を現（あらわ）して、悩み果てた人々（ひとびと）(2-273)の不安をいっそう掻（か）き立て、王の御用（ごよう）を努（つと）める。(12-843-852) (12-853)(12-854)(12-855)(12-856)(12-857)(12-858) (12-859)(12-860)(12-861)(12-862)(12-863)(12-864) (12-865)(12-866)(12-867)(12-868) ユピテルは、彼女らのうちのひとりを選び、急遽（きゅうきょ）大空（おおぞら）から発進（はっしん）させたもうた。ユトウルナに、不吉（ふきつ）の事（こと）を伝えるよう、使命（しめい）を与えて。その者は、きりきりと舞いながら地上へ急降下した。それはまるで弓（ゆみ）の弦（げん）から放たれた矢が、雲間（くもま）を抜けて飛んでいくようだった。パルティ人(7-610)はそのような矢に恐ろしい毒草（どくそう）の液を染み込ませておく。パルティ人もキュドン人（クレタ島の住人）も、そんな致命的な矢を使う。 矢は人知れず、ぶうんと呻（うな）りながら超高速で影の中を移動する。夜の女王の娘もそのように地上へ飛んでいった。彼女は、イリアカ（トロヤ）の戦列とトウルヌスの軍陣（ぐんじん）を検分（けんぶん）すると、突然、身を縮（ちぢ）め、小さな鳥の姿になった。それは、夜遅く、墓場や荒れ果てた空き家の屋根に止まり、闇（やみ）に向かって不吉（ふきつ）な歌をうたうあの鳥の姿だった。 悪鬼（あっき）は、この姿でトウルヌスの顔の前につきまとい、ほうほうと鳴（な）きながら、ばたばたと翼（よく）を盾に打ちつけた。あまりの奇怪さに、悪寒（おかん）に囚（とら）われ、トウルヌスの全身（ぜんしん）は凍（こお）りついた。恐ろしさのあまり髪の毛がぴんと立ち、声はかすれて咽喉（のど）に張りついた。(12-853-868) (12-869)(12-870)(12-871)(12-872)(12-873)(12-874) (12-875)(12-876)(12-877)(12-878)(12-879)(12-880) (12-881)(12-882)(12-883)(12-884)(12-885)(12-886) 遠くから羅刹（らせつ）女（め）（ディラ）の甲高（かんだか）い羽音（はおと）を耳にした不幸な妹ユトウルナは、ほどいた髪の毛を掻（か）き毟（むし）った。そして顔に爪を立てて引っかき、拳（こぶし）で胸を叩（たた）いた。 「トウルヌス、こうなっては無力な妹には何もできないわ。頑張ったけど、もはやわたしには打つ手がない。もうどんなことをしてもあなたを助けることはできないわ。 あんな化け物（ばけもの）には対抗（たいこう）する術（すべ）が見つからない。わたしは、もうさっさと戦列から去るしかない。不吉な鳥めらよ、わたしを恐がらせるにはおよばぬ。わたしはおまえたちを見ただけで、ふるえあがっているのだ。おまえたちの羽ばたきはすぐわかる。それは死の響きだわ。心の広いユピテル(12-153)の恐ろしいご命令を見紛（みまが）うことはない。 でもこれが、わたしの処女（しょじょ）を奪った(12-141)お返しなのですか。何のために大神はわたしに永遠の命（いのち）を与えたもうたのですか。どうして死の定めをお取り上げになったのですか。これではわたしはこの苦しみを終らせることができないではありませんか。お気の毒な兄上のお伴（とも）として、一緒（いっしょ）に泉下（せんか）に赴（おもむ）くことができないではありませんか。 わたしなど、不死（ふし）でもどうしようもありません。兄上（あにうえ）、あなたがいなければ、わたしにはどんな楽しみも無意味なのですもの。ああ、せめて大地よ、ぽっかりと口を開いてわたしをうんと深く呑（の）み込んでおくれ。女神のこの身を、奥底（おくそこ）の亡者（もうじゃ：マネスという）たちのもとへ届けてはくれないか」。 彼女はこう言うと、その頭を、青灰色（せいはいしょく）の外套（がいとう）で覆（おお）い、嘆（なげ）きの呻（うめ）きをあげつつ、深い流れの中へ身をうずめた。(12-869-886)

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2015/12/25 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会