１０（７）トロイ艦隊の妖精

○（１０−７）トロイの船の精が現れ、アエネアスを励まし、船をぐいと押した。 (10-215)(10-216)(10-217)(10-218) すでに日は傾き、心（こころ）優（やさ）しきポエベ（月の女神）が、夜馬車（やばしゃ）を天（オリュムプス）の中道（ちゅうどう）に動かしていた。だがさまざまな思いに心を馳せるアエネアスの身体には、安らぎが訪れようとはしなかった。彼は自ら舵（かじ）をとり、帆（ほ）を操作した。(10-215-218) (10-219)(10-220)(10-221)(10-222)(10-223)(10-224) (10-225)(10-226)(10-227) すると、航路半（なか）ばにさしかかった頃、彼のかつての道連（みちづ）れたちが、群（むれ：コルスという）をなして姿を見せた。それはあの水娘（ニンフ）たちであった。あの心優しきキュベベが海の霊体（れいたい：ヌメンという）となるよう、船から変身させた水娘（ニンフ）たちであった(9-122)。 かつて陸に繋留（けいりゅう）されていた頃、艦首の装飾として立っていたのと同じ数の水娘（ニンフ）が、一斉（いっせい）に腕（うで）をそろえ、水を切って泳いでいた。彼女たちは、遠くに王の姿を認めると、遊泳輪（ゆうえいわ：コレアという）を組（くみ）ながら、見る見る追いついていった。 彼女たちの中ではいちばんうまく言葉を話すキュモドケアが、後から追尾して水面に背を見せて浮かび上がり、右手で船につかまり、左手で静かに波を切って泳いだ。(10-219-227) (10-228)(10-229)(10-230)(10-231)(10-232)(10-233) (10-234)(10-235) 彼女は、不意（ふい）にアエネアスに言葉をかけた。「起きて居たまうや否や、神々の末裔（まつえい）たるアエネアス王、お起きあそばせ。帆綱（ほづな）をゆるめ、帆をお張りあそばせ。わたしたちをお忘れですの。わたしたち、イダの聖なる山頂（さんちょう）に生（は）えていた松の木ですの。今では海の水娘（ニンフ）ですわ。でも一度はアエネアスの艦隊であった者ですわ。 わたしたちはあの酷（むご）いルトウリ人（トウルヌス）に切り倒されて、火をつけられなしたの(9-76)。わたしたち、残念ではあったけれど、あなたの舫綱（もやいづな：船をつなぎとめる綱）を切らせていただきました。そしてあなたを海中（かいちゅう）探し回ったのです。 わたしたちの母神様（ははかみさま：キュベベのこと）が、わたしたちを哀（あわ）れんで、こんな格好（かっこう）にして、女神（めがみ）の端（はし）に加えてくださいました。今ではわたしたちは、波間に揺（ゆ）れる暮らしを送っているのです。(10-228-235) (10-236)(10-237)(10-238)(10-239)(10-240)(10-241) (10-242)(10-243)(10-244)(10-245) アスカニウスの御曹司（おんぞうし）は、今、濠（ほり）と壁の中から一歩（いっぽ）も出られません。飛（と）び来（きた）る槍にさらされ、マルス神に取り憑（つ）かれて暴れ回るラティニ人の猛攻（もうこう）を受けています。ですが頼みのエトルスクス（エトルリア）騎兵と合体（がったい）したアルカス（アルカディア）騎兵隊は、すでに配置についています。（騎兵隊は陸路をとった）。 トウルヌス王は、この騎兵と城とを連絡させないように、騎兵小隊（きへい・しょうたい：トウルマという：三十騎）を何個か、その間に投入する決心を固めました。今やその時が来ました。アウロラ（曙の女神）が天（オリュムプス）に訪れたら、ただちに将兵（しょうへい）に戦闘準備の号令（ごうれい）をおかけなさい。 また御手（みて）に、炎火大明神（えんかだいみょうじん：イグニポテンス）が黄金（おうごん）で縁（ふち）どりしたもうた不敗の盾をお取りあそばせ。わたしの言葉を徒（あだ）ごととお考えなきよう。さすれば明日（あす）の光は、夥（おびただ）しいルトウリ人の屍（しかばね）の山を目にすることとなりましょう」。(10-236-245) (10-246)(10-247)(10-248)(10-249)(10-250)(10-251)(10-252) (10-253)(10-254)(10-255)(10-256)(10-257)(10-258)(10-259) 彼女はこう言うと、別れに際し、そびえる船を、右手でぐいと押した。それは手馴（てなれ）れた一押（ひとお）しだった（彼女も元は船だったため）。船はたちまち速度を上げ、投槍よりも速く、風の如（ごと）く飛ぶ矢よりも速く、波を切って走り始めた。他の軍船（ぐんせん）も次々に速度を上げた。 これにはただ驚き呆（あき）れるばかりのアンキセスの御子のトロヤ人（アエネアスのこと）だったが、やがてこの怪異（かいい）に勇気百倍した。彼は大空の蒼穹（そうきゅう）を見つめ、短い祈りの言葉を捧げた。「御心（みこころ）深く、ディンデュマのお山(9-620)と、塔のそびえる町々と、手綱（たづな）に繋（つな）がれた対（つい）のライオン（女神キュベベの戦車を引く）とを慈（いつく）しみたまう、優（やさ）しきイダの母君（キュベベ）よ、この度（たび）は、わがためにみ戦（いくさ）を導きたまえ。 願（ねが）わくはご高配（きうはい）を賜（たまわ）り、吉兆（きっちょう）をお示しくださり、プリギュア勢に忝（かたじけな）きご加護のあらんことを」。彼がかく述べた頃はすでに日が中天（ちゅうてん：天の中心）にあり、まぶしい光が夜を追放したあとだった。彼はまず将兵に向かい、軍旗（ぐんき：シグナという）にしたがうこと、勇猛心を奮い起して戦闘配置につくことを命じた。(10-246-259)

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2015/12/06 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会