１０（３）ユノの反論

　１０（３）ユノの反論(はんろん)

○（１０－３）女神ユノの言い分（トウルヌス側の弁護）
すると妃（きさき）のユノは猛然（もうぜん）と反論を開始した。「何も言わず、黙って聞いていようと思ったのですが、とてもとても、そうさせて貰（もら）えそうにないわね。誰にも解らぬわたしの心の悩みを、言葉で言えというのですか。あなたの言い草（いいぐさ）では、まるで人間か神様の誰かが、アエネアスを戦争に駆り立てて、ラティヌス王の敵になるよう仕向（しむ）けたように聞こえますわよ。

彼がれっきとした運命（さだめ）に従ってイタリアを求めていることは、わたしも承知（しょうち）しています。カサンドラの狂った予言(3-191)が彼を駆り立てたのも本当でしょう。でもわたしたちは彼を陣営から追い立ててなどいませんよ。彼の命運（めいうん）を風任（かぜまか）せにさせたのはわたしたちではありません。(10-59-69)

(10-70)(10-71)(10-72)(10-73)(10-74)(10-75)(10-76)(10-77)
(10-78)(10-79)(10-80)
第一、あんな小僧っ子（こぞうっこ：アスカニウスのこと）に指揮権（しきけん）を与えて城壁を守らせたり、テュレナ（エトルリア）の結束を破らせて、民族（みんぞく：ゲンスという）の平安（へいあん）を乱（みだ）すなど、わたしたちがするはずがありません。どこの神様がそんなことをしますか。わたしたちにしても絶対にそんな無体（むたい）なまねはできません。こんな出来事のどこに、このユノの出番がありますか。雲から派遣されるイリスの話など、馬鹿（ばか）らしくて聞いていられないわよ。

そりゃこれから生まれ変わろうとするトロヤを、イタリー人どもが火で攻めたてるのは、良くありませんわね。トウルヌス王が、自分の祖国にしがみついているのも不当なことですわ。でも断っておきますが、彼のお爺さまはピルムヌス(9-13)で、母上は女神のウェニリア様なのですからね。逆に、トロヤ人たちが、黒い松明（たいまつ）を投げ込んでラティニ人を挑発するのは許されるのですか。他人の土地に勝手に鋤（すき）鍬（くわ）を入れたり、獲物を持っていってしまったり、それはどうして許されるのですか。

一方的に舅（しゅうと：ラティヌス王のこと）を選んだり、他人の婚約者（ラウィニア姫のこと）を母親の胸から強奪（ごうだつ）したりすることが、どうして許されるのですか。彼らこそ、手には平和のしるし（オリーブ）を掲（かか）げながら、武器を満載した軍艦を前進させているのではありませんか。(10-70-80)

(10-81)(10-82)(10-83)(10-84)(10-85)(10-86)(10-87)(10-88)
(10-89)(10-90)(10-91)(10-92)(10-93)(10-94)(10-95)
あなたの方（ほう）も、アエネアスをギリシャ人たちの手から逃（のが）れさせ、彼の代りに雲を置いて空（むな）しい風を吹かせてみたり（イリアス5-311）、艦隊を同数の水娘（ニンフ）に変身させたり(9-122)と、いろいろな技（わざ）をお使いね。それではわたしたちだって、対抗上（たいこうじょう）、ルトウリ人を助けざるを得ませんよ。これは何ら不当な行為ではありません。

それをまあ、『アエネアスは留守（るす）にしていてこの事を何も知りません』ですって。ええ、留守で、この事を何も知らなくて、結構（けっこう）なのです。あなたにはパプスの神殿やイダリウムの町やそびえるキュテラの山があるのですから、それで満足しなさい。あなたともあろう女神（めがみ）が、戦（いくさ）の一杯（いっぱい）詰った都（みやこ）をほしがったり、荒ぶる人々の心を支配しようなどとするわけが分かりません。

そもそも、ぼろぼろに崩れそうなプリギュア（トロヤ）の政治（せいじ）生命（せいめい）の息の根（いきのね）を、わたしたちが止めようとしているのだ、などとお考えか。このわたしたちが。それとも哀れなトロヤ人たちをアキウイ（ギリシャ）人たちの餌食（えじき）にした本当の張本人（ちょうほんにん）は誰なのか、よくよく胸に手を当ててお考えあそばせ。

このエウロパ（ヨーロッパ：ギリシャ地方）とアシア（アジア：今のトルコの西側地方）の衝突（しょうとつ）の原因は、何だったとお思いか。恩（おん）を仇（あだ）で返した人（スパルタ王メネラウスの客人となりながらその妻ヘレネを誘拐したパリス）の行為（こうい）が、そもそもの事の発端（ほったん）ではありませんか。あのダルダヌスの助平（すけべえ）男（おとこ：パリスのこと）がスパルタを侮辱（ぶじょく）したのは、このわらわの誘導だったとでもお言いかえ。

このわらわが投槍を準備してクピドを使って戦争に火をつけたなどと、お言いかえ。あなたはご自分の一族のためにもっと慎重であるべきだったのではありませんか。いまさら不平を並べても遅うござんすわ。だって全く筋が通っておりません。ここでごちゃごちゃ言われても何の役（やく）にもたちません」。(10-81-95)

2015/12/06 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会