１０（１７）トウルヌスの助命

　１０（１７）トウルヌスの助命(じょめい)

○（１０－１７）ユピテルとユノの会話ユノがトウルヌスの助命を嘆願
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この頃、ユピテルがご自分の方からユノにお声をかけたもうた、「わが妹にして愛（いと）しの妻よ、そちの思った通りの展開じゃ。そちの見立ては間違っておらぬわ。トロヤの優勢を支えているのはウェヌス（女神にしてアエネアスの母）のみであって、あの兵（つわもの）どもにはこれだけの戦（いくさ）をやり抜く実力も、危険に耐え抜く勇猛心のひとかけらもない（皮肉の言葉）」。(10-606-610)

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ユノは首（こうべ）を低く垂れた。「ああ、愛（いと）しの旦那（だんな）さま、どうしてまた、わたしを苛（いじ）めて、そのような皮肉（ひにく）をおっしゃって、わたしを苦しめられますか。わたしは辛（つろ）うございます。ああ、わたしにもまだ昔の愛（あい）の力が残っていますかしら。それならばひとつ、どうしても聞いていただきたいことがございますのよ。全知全能（ぜんちぜんのう：オムニポテンスという）の旦那さま、わたしはどうにかして、あのトウルヌスをこの戦場から脱出させ、無事に父ダウヌス(8-151)殿のもとに帰してやりたいのです。

このままではあの勇士は死にます。そしてテウクリ人たちに清い血の贖（あがな）いを捧げることになります。そうなるべきことがわからないわたしではありません。でもトウルヌスも、わたしたち神族（かみぞく）の流れを汲（く）む名家（めいか）の人間（にんげん）なのです。四代（よんだい）遡（さかのぼ）ればピルムヌス(9-13)に至り着く家柄（いえがら）なのです。トウルヌスはあなたの神殿にも、よく手いっぱいの供物（くもつ）を捧げ、惜しみない献上物を積み上げましたわ」。(10-611-620)

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高き天（オリュムプス）の王者は手短（てみじか）に彼女に答えた。「あの若者の最後を延期せよと申すのだな。死の定まった者に猶予（ゆうよ）を与えよと申すのだな。わしがそうすると踏んだな。いいだろう。トウルヌスを逃がしてやれ。さし迫った運命（さだめ）は取り下げよう。しかしおまえの我がままもそこまでじゃ。もしもお前がその懇願の中に、変な下心（したごころ）を隠（かく）し、戦争全体の成り行きを紛（まぎ）れさせ、結果を変えてしまおうなどと思うならば、それはかなわぬ夢と心得よ」。

するとユノは、わっと泣き出した。「お言葉ではそうおっしゃっても、ご心中（しんちゅう）でご承知くださることはできますわ。トウルヌスをこのままそっと生かしておくことは不可能ではありませんもの。今のままでは、何の罪もない人間が悲惨な最期（さいご）に遭（あ）わねばならないのでございますわよ。それともわたしは真実を見抜くことができない愚かな女なのかしら。ああ、わたしが杞憂（きゆう）に弄（もてあそ）ばれているだけならよいのだけれど。あなたは、もっと良いご思案（しあん）に、お心（こころ）をお変えあそばすべきですわ。あなたはそれがおできになるお方なのですから。(10-621-632)

2015/12/10 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会