５１（３）デピネーと ５１（３）デピネーと
| 4-51-3-1だが、すぐに、「だってマクシミリヤンさん、と、彼女（かのじょ）は、悲（かな）しそうに、さもいままで心を照（て）らしていた日（ひ）の光（ひかり）にたちまち邪魔（じゃま）な雲（くも）がかりでもしたように言（い）った。4-51-3-2「それではあまり自由（じゆう）になりすぎはしませんかしら？4-51-3-3あまり大胆（だいたん）に、幸福（こうふく）に酔（よ）いすぎることにはなりませんかしら？4-51-3-4だいじょうぶと思（おも）って、いい気持（きもち）になりすぎはしませんかしら？4-51-3-5そして、そのだいじょうぶということが、かえって二人（ふたり）を危険（きけん）にさせたりはしませんかしら？」。 4-51-3-6「どうしてそんなことが言えるんです？4-51-3-7あなたにお目（め）にかかって以来（いらい）、自分（じぶん）の考（かんが）え方（かた）なり生活（せいかつ）なり、みんなあなたの生活や考（かんが）え方（かた）どおりにしていたこの僕（ぼく）に？4-51-3-8あなたはどうして僕を信用（しんよう）するようにおなりでした？4-51-3-9僕が、あなたのおかげで、幸福になっているのをごらんになったからではないでしょうか？4-51-3-10あなたが、はっきりとはわからないがどうやらいちばん危（あぶ）ないときらしいとおっしゃったとき、僕は一所懸命（いっしょけんめい）あなたのためにお尽（つ）くししました。4-51-3-11しかも僕は、あなたにお尽くしするという幸福（こうふく）以外（いがい）、なにも求（もと）めはしませんでした。 4-51-3-12それ以来（いらい）、あなたのためなら死（し）んでもいいと思（おも）っている人（ひと）たちのなかから、とくに僕をえらんでくだすったことを後悔（こうかい）なさらなければならないようなことを、言葉（ことば）でなり、しぐさでなり、お見せしたことがあったでしょうか？4-51-3-13あなたは、デピネーさんと許嫁（いいなずけ）であり、それは、お父（とう）さまがお決（き）めになったのだから、もう確定的（かくていてき）なことだと言っておいででした。4-51-3-14つまりビルフォールさんは、いったんこうと定（さだ）めた以上、そうしないではいらっしゃれない方（かた）なのですから。 4-51-3-15で、僕（ぼく）はかげにかくれて、すべて、僕の意思（いし）でもなければあなたの意思でもなく、ただ神（かみ）さまの思召（おぼしめ）し、神さまがこうなさろうというお考（かんが）えにおまかせ申（もう）していました。4-51-3-16ところが、あなたは僕を愛（あい）してくだすった。4-51-3-17僕をかわいそうに思（おも）ってくだすった。4-51-3-18そしてあなたは、それを口（くち）に出（だ）して言ってくだすった。4-51-3-19そのときのやさしいお言葉を、どれほど嬉（うれ）しく思ったことか。4-51-3-20あのお言葉を、ときどきくり返（かえ）して聞（き）かせてください。4-51-3-21そうしたら、僕は、なにもかも忘（わす）れてしまうことができますから」。 4-51-3-22「それであなたは、すっかり大胆（だいたん）におなりでしたのね。4-51-3-23それがわたしを、こうして、なんだか嬉（うれ）しいような、悲（かな）しいような日（ひ）を過（す）ごさせることになったんですわ。4-51-3-24わたしはいつも考えているんですの。4-51-3-25昔（むかし）のように、お継母（けいぼ：かあ）さまからあんなにつらく当（あた）られ、そして、お継母（かあ）さまがご自分（じぶん）の子供（こども）を盲目的（もうもくてき）にかわいがっておいでなのを悲（かな）しそうに見ていたときのほうがよかったのか、それとも、あなたにお目にかかれての、こうした危険（きけん）な幸福のほうがよかったのかと」。 4-51-3-26「危険ですって！」と、マクシミリヤンは叫（さけ）んだ。4-51-3-27「あなたには、そんな酷（むご）たらしい、そんなまちがった言葉が言えるのですか？4-51-3-28あなたは、僕ほど従順（じゅうじゅん）な奴隷（どれい）をごらんになったことがおありでしょうか？4-51-3-29ときどきは言葉をかけてもいいとおっしゃりながら、後（あと）からついてきてはいけないとおっしゃいました。4-51-3-30そして、僕は、おっしゃるとおりにしていました。4-51-3-31僕が、ここの地所（じしょ）にはいってくる手（て）だてを見（み）つけ、塀（へい）を距（へだ）ててあなたとお話（はなし）ができ、お顔（かお）は見（み）えないまでも、あなたとこんなに近（ちか）くにいられるようになってからも、僕は、一度（いちど）だって、あなたに、せめて着物（きもの）の端（はし）だけでも塀越（へいご）しにさわらせてくださいなんてお願（ねが）いしたことがあるでしょうか？ 4-51-3-32僕の若（わか）さ、僕の力（ちから）をもってしたら、取（と）るにたりないようなこうした塀を、一度だって乗（の）りこえようとしたことがあったでしょうか？4-51-3-33あなたの態度（たいど）のつれなさについて文句（もんく）を言ったこともなく、自分の望（のぞ）みを高（たか）い声（こえ）で出（だ）したことさえありません。4-51-3-34僕は、あなたとのお約束（やくそく）に、まるで昔（むかし）の騎士（きし）のように身（み）を縛（しば）られていたのでした。4-51-3-35せめてこのことだけは認（みと）めてください。4-51-3-36僕はあなたを、意地悪（いじわる）な方（かた）と思いたくはないのですから」。 4-51-3-37「そうでしたわ」と、バランティーヌは、塀（へい）の隙間（すきま）から、細（ほっそ）りした指（ゆび）の先（さき）をのぞかせながら言った。4-51-3-38マクシミリヤンは、その指の上（うえ）に唇（くちびる）をつけた。 |
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ページ制作者者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
この本は、ささくら修道会の必読書
2017/9/23