５１（４）マクシミリアンとバランティーヌ

4-51-4-1そうでしたわ、あなたは、正直（しょうじき）なお友（とも）だちでいてくださいました。4-51-4-2でもマクシミリヤンさん、あなたがそんなふうになすったのも、もとはと言えば、みんなあなた御自身（ごじしん）のためをお考（かんが）えになってのことではないでしょうか？4-51-4-3御存（ごぞん）じだったじゃありませんか、なにか望（のぞ）みを起（お）こしたが最後（さいご）、奴隷（どれい）はすべてを失（うしな）わなければならないのだって。4-51-4-4あなたは、わたしのお兄（にい）さまになるお約束（やくそく）をなさいました。 4-51-4-5友だちのないこのわたし、お父（とう）さまにも忘（わす）れられ、お継母（かあ）さまからはいじめられ、そして、ただあのお祖父（そふ：この場合、じいと読もう・・・）さま−−−身動（みうご）きできず、黙（だま）って、氷（こおり）のように冷（つめ）たくなって、ご自分（じぶん）の手（て）であたしの手（て）をお握（にぎ）りになることもできず、御話（おはなし）のできるのはただお目（め）でばかり、心臓（しんぞう）にいくらか残（のこ）っているぬくもりで、ただわたしのためにだけ生（い）きていてくださるあのお祖父（じい）さまのほか、慰（なぐさ）め手（て）のないこのわたし。 4-51-4-6ああ、わたしは、なんという不運（ふうん）な人間（にんげん）でしょう。4-51-4-7わたしより強（つよ）い人（ひと）は、みんなわたしを目（め）の仇（かたき）にしていじめますの。4-51-4-8そして、わたしの味方（みかた）になり、わたしのお友だちになってくれているのは、あの死骸（しがい）同然（どうぜん）なお祖父さましかないんですもの。4-51-4-9ああ、マクシミリヤンさん、わたしほんとに不仕合（ふしあわ）せですわ。4-51-4-10あなたが、御自分（ごじぶん）のためでなく、このわたしのためにわたしをかわいがっていてくださる意味（いみ）がわかりますわ」。 4-51-4-11「バランティーヌさん、」と、青年（せいねん）は深（ふか）く心（こころ）を動（うご）かされながら言った。4-51-4-12「僕は、この世（よ）の中（なか）で、あなたばかりを愛（あい）しているとは言（い）えません。4-51-4-13僕は、妹（いもうと）や、義弟（ぎてい）を愛しています。4-51-4-14でも、それはしずかな、落（お）ちついた愛の気持（きもち）で愛しているにすぎません。4-51-4-15それは、あなたにたいして感（かん）じているような気持（きもち）とは、似（に）てもつかないものなのです。4-51-4-16あなたのことを思（おも）うと、血（ち）は沸（わ）き立（た）ち胸（むね）は膨（は）れ、心臓（しんぞう）は溢（あふ）れてくるのです。4-51-4-17だが、この力（ちから）なっり、この情熱（じょうねつ）なり、この人間（にんげん）を超（こ）えた力（ちから）なり、それはただあなたを愛するために使（つか）うだけで、それがいつかお役（やく）にたつときがきて、あなたが使えとおっしゃるときまで、そっとしておくつもりです。 4-51-4-18フランツ・デピネーさんは、あと一年（いちねん）はお留守（るす）だとか。4-51-4-19その一年のあいだに、つごうのいいこともおこるでしょう。4-51-4-20いろいろなことが、僕たちをたすけてくれることでしょう。4-51-4-21だから、希望（きぼう）をもとうじゃありませんか。4-51-4-22希望をもつということは、とても愉快（ゆかい）な、じつに楽（たの）しいことなのです！4-51-4-23ところでバランティーヌさん、あなたは僕の利己主義（りこしゅぎ）をお咎（とが）めでしたが、あなたはこれまで、僕にたいしてどういう方（かた）でおいででした？4-51-4-24美（うつく）しい、冷（つめ）たい、純潔（じゅんけつ）なビーナスといったような方（かた）。 4-51-4-25僕があなたに心を捧（ささ）げ、あなたの言うことを聞き、これほど心を抑（おさ）えているのに、あなたは、なにを約束（やくそく）してくださいました？4-51-4-26あなたは、なにもしてくださらなかった。4-51-4-27あなたは、なにをゆるしてくださいました。4-51-4-28ほんのわずかなことばかり。4-51-4-29あなたは僕に、デピネーさんのことをお話しになり、そしていつかはあの人のところへゆくことを思って溜息（ためいき）をついておいでになる。 4-51-4-30ねえ、バランティーヌさん、それがあなたのお心のすべてですか？4-51-4-31なんということでしょう。4-51-4-32僕があなたに命（いのち）を捧（ささ）げ、魂（たましい）を捧げ、そして、僕の心の目に見えないほどな鼓動（こどう）さえ、あなたのために打（う）っているのに。4-51-4-33そしてこの僕が、すべてをあなたに捧げ、もしあなたがおいでにならなくなったら、死（し）のうとまでも思っているとき、あなたは、ほかの人のものになることを思（おも）って少（すこ）しも怪（あや）しんでおいでにならない！ 4-51-4-34おお、バランティーヌさん、もしこの僕があなたであり、そしていま、あなたが僕に愛されているのがおわかりなのとおなじように、誰（だれ）かに愛（あい）されていることがわかったとしたら、僕は、すでに何度（なんど）となくこの柵（さく）の隙間（すきま）から手（て）を出（だ）して、気（き）の毒（どく）なマクシミリヤンにこう言（い）ってやったろうと思（おも）うのです。4-51-4-35『この世（よ）はもとより、あの世へ行っても、マクシミリヤンさん、わたしはあなたのものなのよ』って」。 4-51-4-36バランティーヌからは、なんの返事（へんじ）も聞（き）かれなかった。4-51-4-37だが、青年（せいねん）には、彼女（かのじょ）が溜息をつき、泣（な）いているのが聞（き）きとれた。4-51-4-38すぐさま、マクシミリヤンは思いかえした。4-51-4-39「おお！」と、青年は叫（さけ）んだ。4-51-4-40「バランティーヌさん！4-51-4-41バランティーヌさん！4-51-4-42いま言ったことを忘（わす）れてください。4-51-4-43もしもあなたを心配（しんぱい）おさせするようなことを言ったのでしたら！」。

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ページ制作者者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
この本は、ささくら修道会の必読書
2017/9/23