４５（４）家令「エドモンとベルツッチオのつながり」

3-45-4-1事（こと）のおこりは、一人（ひとり）の税関吏（ぜいかんり）が、わたくしの跡（あと）をつけていたというわけでした。3-45-4-2そして、家（いえ）の近（ちか）くまできてわたくしを見失（みうしな）ったというわけですが、『てっきり』、ここに泊（とま）るにちがいないと見当（けんとう）をつけて、仲間（なかま）を呼（よ）びにいったのでした。3-45-4-3そして、仲間といっしょにやってきたとき、ちょうどピストルの音（おと）が聞（き）こえたため、つまりわたくしは、証拠（しょうこ）じゅうぶんということで引（ひ）っとらえられたというわけでした。3-45-4-4こうした以上（いじょう）、身の潔白（けっぱく）を申し立ててみたところで、事（こと）はむずかしいぞとわかりました。 3-45-4-5このうえの一縷（いちる）の望（のぞ）みは、予審判事（よしん・はんじ）にお願いして、その日（ひ）の昼（ひる）、『ポン・デュ・ガール』の旅籠（はたご）に立ちよったブゾーニ司祭（しさい）さんという人（ひと）をさがしていただくほかにございません。3-45-4-6もしあの話（はなし）が、カドルッスのこねあげたもので、そんな司祭さんがいないとなったら、カドルッス自身（じしん）が御用（ごよう）にかかり（読者註：逮捕され）、万事（ばんじ）白状（はくじょう）してくれないかぎり、万事休（ばんじきゅう）すというわけでした。 3-45-4-7それからの二ヶ月というもの、これは判事さんの名誉（めいよ）のために申しあげなければなりませんが、八方（はっぽう）手をつくして、」その人をさがしてくださいました。3-45-4-8わたくしは、ほとんど希望（きぼう）を失（うしな）いかけておりました。3-45-4-9カドルッスのほうも捕（とら）まりません。3-45-4-10いよいよ第一回公判（こうはん）ということになっていました。 3-45-4-11折（おり）も折、九月八日（くがつ・ようか）、事件（じけん）があって三ヶ月と五日目（いつか・め）に、あきらめきっていたブゾーニ司祭が、自分に会いたがっている囚人（しゅうじん）がいるとお聞きになって、わざわざ刑務所（けいむしょ）へ訪（たず）ねてみえたというわけでした。3-45-4-12司祭さんは、そのことをマルセイユでお聞きになり、その囚人（しゅうじん）の望（のぞ）みをかなえてやろうと、急（いそ）いでこられたということでした。 ---９月８日は、彼ブゾーニ司祭ことエドモンが、トムスン・アンド・フレンチ商会の社員を名乗って、モレル氏の隠れた善行に報いた日、９月５日から三日後だ。彼はその時まだ、マルセイユにいたのだった。 3-45-4-13わたくしが、どんなに胸（むね）おどらせて司祭さんをお迎（むか）えしたか、おわかりいただけるでございましょう。3-45-4-14わたくしは、見聞（みき）きしたことを、洗（あら）いざらいお話し申しあげました。3-45-4-15心配（しんぱい）ではございましたが、ダイヤのことにも触（ふ）れました。3-45-4-16ところが、わたくしの予想（よそう）に反（はん）して、その話は何から何までほんとうでした。3-45-4-17それにまた、わたくしの考えていたのとちがって、あの方（かた）は、わたくしの言うことを一々（いちいち）お信じくださいました。3-45-4-18そのときでございます。3-45-4-19わたくしは、あの方の、おやさしい、お慈悲（じひ）ぶかいお心（こころ）にあまえ、また、あの方が、わたくしの生（う）まれ故郷（こきょう）の習慣（しゅうかん）をよく御存（ごぞん）じということをうかがいまして、おそらくあの方（かた）のお情（なさけ）け深（ぶか）いお口（くち）からなら、自分の犯（おか）したただ一つの罪（つみ）のゆるしもいただけることと思いまして、わたくしの『ざんげ』でございます、どうかお洩（も）らしくださいませんようにとお願いしながら、オートィユ事件（じけん）のことを事細（ことこま）やかにお話し申しあげたのでございました。 3-45-4-20まるで引きずられるようにお話ししてしまったわたくしは、結果（けっか）から申しますと、すべてを当（あ）てにしてでもいたようなことになったのでございます。3-45-4-21と申しますのは、言わずともよかった第一の殺人（さつじん）のことを懺悔（ざんげ）したことから、あの方（かた）は、わたくしが第二の殺人を犯（おか）していないことをおわかりくだすったからでございました。3-45-4-22あの方は、別（わか）れぎわに、希望（きぼう）をすてるなとおっしゃってくださいました。3-45-4-23また、わたくしの『むじつ』を法官（ほうかん）たちに納得（なっとく）させるため、できるだけのことをしてやろうともおっしゃってくださいました。 3-45-4-24そのうち、獄内（ごくない）の取（と）り扱（あつか）いが、だんだんゆるやかになってまいりました。3-45-4-25そして、自分の裁判（さいばん）が、ちょうどそのとき行われていた公判（こうはん）の次に行われるだろうということを知りましたわたくしは、さてはあの方（かた）が、わたくしのことを、心（こころ）にかけていてくださるのだなと思いました。3-45-4-26さすがに天道（てんどう：神）さまはお見通（みとお）しで、そうしているまに、カドルッスは、外国（がいこく）で捕（とら）まえられ、フランスへ送（おく）りかえされてまいりました。3-45-4-27やつは、いっさいを白状（はくじょう）いたしまして、殺（ころ）す気持（きもち）を起（お）させたのが、とりわけそれをそそのかしたのが女房（にょうぼう）だったと申し立てました。3-45-4-28その結果、やつは終身懲役（しゅうしん・ちょうえき）を申し渡（わた）され、わたくしは無罪（むざい）ということになりました」。 3-45-4-29「ブゾーニ司祭の手紙（てがみ）を持（も）ってわたしのところへきたのも、ちょうどそのときのことだったというわけだな？」と、モンテ・クリスト伯が言った。3-45-4-30「さようでございます。3-45-4-31あの方は、わたくしのことをとても心配（しんぱい）していてくださいました。3-45-4-32そして、『密輸入（みつゆにゅう）などをやっていてっは身（み）の破滅（はめつ）だ。3-45-4-33ここを出（で）たら、ああした商売（しょうばい）は止（や）めなさい』ともおっしゃいました。3-45-4-34『でも司祭さま、どうして自分も食（た）べ、かわいそうな姉（あね）も食（く）わせて行（い）くことができましょう？』と、こうおたずねいたしますと、『わたしの手で懺悔（ざんげ）をした人で、わたしをとても信頼（しんらい）していてくれる方（かた）がある。3-45-4-35その方から、信用（しんよう）の置（お）ける男（おとこ）を一人（ひとり）せわしてくれないかとたのんで見えている。3-45-4-36どうだ、行って見る気はないか？3-45-4-37紹介（しょうかい）して上げるが』。 3-45-4-38『おお、司祭さま！3-45-4-39それはまたなんとご親切（しんせつ）な！』と、わたくしは声（こえ）を上げました。3-45-4-40『ただし、あとでわたしを後悔（こうかい）させたりしないと、誓（ちか）うことができるだろうな？』。3-45-4-41わたくしは、誓いを立てようとして手を出しました。3-45-4-42『そんなことはせんでもよい。3-45-4-43わたしは、コルシカ人（じん）というものを知（し）っているし、また好（す）きでもある。3-45-4-44さ、これが紹介状（しょうかいじょう）だ』。3-45-4-45あの方は、さらさらと一筆（いっぴつ）したためてくださいました。3-45-4-46その紹介状のおかげで、旦那（だんな）さまにお使（つか）いいただけることになったのでございます。3-45-4-47ところで、これは威張（いば）っておたずね申しあげられると思いますが、これまでに、わたくしについて何か御不満（ごふまん）がおありになりましたろうか？」。 3-45-4-48「いや、」と、伯爵（はくしゃく）は答（こた）えた。3-45-4-49「お前（まえ）はじつに立派（りっぱ）な奉公人（ほうこうにん）だ。3-45-4-50ただし、人（ひと）を信用（しんよう）するということだけは知（し）らないようだが」。

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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/25