４５（５） ４５（５）
| 3-45-5-1「伯爵（はくしゃく）さま、わたくしが！」。3-45-5-2「そうさ、お前（まえ）がさ。3-45-5-3姉（あね）があり、もらった子供（こども）がありながら、そのどちらについても、ただの一度（いちど）も話して聞かせなかったようだが？」。3-45-5-4「旦那（だんな）さま、それは、わたくしの身（み）について、いちばん悲（かな）しいことをお話ししなければならなかったからでございます。3-45-5-5わたくしは、コルシカへ向（む）けて出発（しゅっぱつ）いたしました。3-45-5-6かわいそうな姉に会（あ）い、慰（なぐさ）めてやりたくて矢（や）も楯（たて）もたまらなかったことは申しあげるまでもございますまい。 3-45-5-7ところが、ログリアノ（Ｒｏｇｌｉａｎｏ）に着（つ）きますと、家は、なにか不幸（ふこう）なことでもあったように『しん』としずまりかえっておりました。3-45-5-8と申しますのは、怖（おそ）ろしいことが起（お）こりましたので。3-45-5-9近所（きんじょ）の人たちは、いまでもそれを覚えております。3-45-5-10かわいそうな姉は、わたくしの教（おし）えてやりましたように、有（あ）り金（がね）全部（ぜんぶ））を吐（は）き出させようとするベネデットの要求（ようきゅう）をしりぞけつづけておりました。3-45-5-11ところがある朝（あさ）、やつは姉をおびやかして、その日（ひ）一日（いちにち）姿（すがた）を見せませんでした。 3-45-5-12姉は涙（なみだ）を流（なが）して心配（しんぱい）いたしました。3-45-5-13やさしい姉は、あの『やくざ』な子供にたいして、まるで母親（ははおや）のような愛情（あいじょう）をもちつづけていたのでございました。3-45-5-14夜（よる）になりました。3-45-5-15姉は、ベッドにもつかず、待（ま）ちつづけておりました。3-45-5-16すると、十一時（じゅういちじ）頃（ごろ）になって、子供は、いつもばかさわぎの相棒（あいぼう）である二人（ふたり）の友（とも）だちをつれて帰（かえ）ってまいりました。3-45-5-17姉は、腕（うで）をひろげて迎（むか）えてやろうといたしました。3-45-5-18すると、三人はたちまち姉をつかまえ、その一人（ひとり）は−−−−おそらく、それはあの怖ろしい子供だったのでございましょう−−−−こうどなりました。 3-45-5-19『『これでも言わないか』をやって遊（あそ）ぼうじゃないか。3-45-5-20そして、どこに金（かね）がしまってあるか白状（はくじょう）させてやろうじゃないか』。3-45-5-21ちょうど、隣（とな）りのワシリオは、バスティア（Ｂａｓｔｉａ）へ出かけておりまして、『かみ』さんだけ留守居（るすい）をしておりました。3-45-5-22そうしたわけで、その『かみ』さんだけが、姉のところのできごとを見（み）たり聞いたりしたというわけでした。3-45-5-23子供たちのうちの二人は、姉をしっかりつかまえました。3-45-5-24姉は、まさかそんな怖ろしいことをされようとは思いませんので、拷問（ごうもん）役（やく）になろうとしていた二人の子供に向かって、微笑（びしょう）して見せていたと申します。3-45-5-25三番目のやつは、戸（と）や窓（まど）をしっかり閉（し）めにいきました。 |
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| 3-45-5-26そして、帰ってまいりますと、三人いっしょになって、準備（じゅんび）の仰々（ぎょうぎょう：本は業々）しさを見て姉が怖くなって声をたてようとするその口（くち）をふさぎ、足（あし）を炉（ろ）の火（ひ）のそばへ持っていって、どこに金が仕舞（しま：本は蔵）ってあるか、それを白状（はくじょう）させようといたしました。3-45-5-27ところが、揉（も）み合（あ）っておりますうち、火は姉の着物（きもの）に燃（も）え移（うつ）りました。3-45-5-28するとやつらは、自分たちまでが火傷（やけど）をしないため、姉をそのまま抛（ほう）り出（だ）して出（で）ていってしまったというわけでした。3-45-5-29姉は、火に包（つつ）まれたまま、戸口（とぐち）まで駈（か）けつけはしたものの、戸は閉まっております。 3-45-5-30今度（こんど）は窓へ飛（と）んでいきました。3-45-5-31だが、窓には、心張（しんば）り棒（ぼう）がかかっておりました。3-45-5-32そのとき、隣りの『かみ』さんは、恐ろしい叫び声を聞いたと申すことですが、とりもなおさず、それは、姉の救（すくい）を求（もと）める声だったのでございます。3-45-5-33やがて、声は絶（た）え絶（だ）えになり、叫（さけ）び声は呻（うめ）き声（ごえ）に変（かわ）りました。3-45-5-34そして翌日（よくじつ）、一晩中（ひとばんじゅう）を恐怖（きょうふ）と不安（ふあん）のうちにすごしたワシリオのかみさんが、怖（おそ）るおそる家（いえ）を出（で）て、役人（やくにん）の手で、わたくしたちの家の戸口（とぐち）を開（あ）けてもらってみますと、姉は半（なか）ば黒焦（くろこ）げになっており、虫（むし）の息（いき）といったありさま、箪笥（たんす）の錠（じょう）は『こじ』開けられ、金（かね）はなくなっておりました。 3-45-5-35ベネデットはと申しますと、ログリアノを出ていって、二度と帰ってまいりませんでした。3-45-5-36その日（ひ）以来（いらい）、二度（にど）と会いもいたしませんでしたし、なんの噂（うわさ）も聞きませんでした。3-45-5-37わたくしがお邸（やしき）にあがりましたのは、」と、ベルツッチオは言葉（ことば）をつづけた。3-45-5-38「この悲（かな）しい事実（じじつ）を知ってからのことでございました。3-45-5-39ベネデットは、ゆくえ知れずというわけで申しあげずにおりましたし、姉のほうは死（し）んでしまっておりましたので申しあげなかったようなわけなのでして」。 3-45-5-40「で、お前はその事件（じけん）をどう考えたんだね？」と、モンテ・クリスト伯がたずねた。3-45-5-41「自分（じぶん）の罪（つみ）の報（むく）いと考えました」と、ベルツッチオが答（こた）えた。3-45-5-42「それにつけても、あのビルフォール一家（いっか）のやつ、彼らは呪（のろ）われたやつらでございます！」。3-45-5-43「わたしもそう思う」と、伯爵は、沈痛（ちんつう）な調子（ちょうし）でつぶやいた。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/25