２４（７）億万長者の現実

2-24-7-1こうした黄金（おうごん）や宝石（ほうせき）に手を触（ふ）れ、ふるえる手をそのなかに突っこんだ後（あと）で、ダンテスは立ちあがったかと思うと、狂人（きょうじん）のように体を昂奮（こうふん）にふるわせながら、洞穴のなかから走り出た。2-24-7-2彼は、海を見わたす岩の上に躍（おど：本は跳）り上がった。2-24-7-3だが、そこにはなに一つ見えなかった。2-24-7-4誰もいなかった。2-24-7-5このはかり知れない、前代未聞（ぜんだいみもん）の、まるで夢のような富を抱（いだ）いて、彼はただ一人だった。2-24-7-6夢をみているのだろうか？2-24-7-7それとも目がさめているのだろうか？2-24-7-8夢はたちまち消え去るのではないだろうか？2-24-7-9それとも、しっかり現実が把握（はあく）されているのだろうか？ 2-24-7-10彼は、もう一度（いちど）黄金（おうごん）を見たいと思った。2-24-7-11だが、それをじっと見ているだけの力はなさそうに思われた。2-24-7-12彼は、しばらくの間、さも理性（りせい）を失わないためといったように、両手で頭をかかえていた。2-24-7-13それから、島中（しまじゅう）を、道をえらばず（モンテ・クリスト島には道がなかった）どこと当（あて）なく、その荒々しい叫び声や狂（くる）おしい身ぶりで、野山羊（のやぎ）を走らせ、海鳥（うみどり）を驚（おどろ）かせながら、ひた走りに走りまわった。2-24-7-14彼は、一（ひと）まわりした後、心にはまだ疑いを抱きながら、元（もと）の場所までもどってきた。 2-24-7-15そして第一の洞穴から第二の洞穴へ躍（おど：本は跳）り込み、さっきの黄金とダイヤモンドの宝庫（ほうこ）の前にきた。2-24-7-16彼はひざまずいた。2-24-7-17そして、痙攣（けいれん）する両手のなかに躍りあがる胸を抑えながら、神の耳だけに聞こえる一つの祈りをつぶやいた。 2-24-7-18やがて、彼は前より落ちついたように思われた。2-24-7-19したがって、自分が幸福になったような気持になった。2-24-7-20それは、このときはじめて、自分の幸福が信じられはじめたからのことだった。2-24-7-21彼は、自分の財産の計算をはじめた。 2-24-7-22そこには、各々ニリーブル（２Ｘ０．５ｋｇ＝１ｋｇ）から三リーブル（１．５ｋｇ）もあろうという黄金の地金（じがね）が千個あった。2-24-7-23それから、今日の貨幣にして各々二十五フラン（２．５万円）もする金貨、すべてアレクサンドル六世や先祖達の肖像のついた金貨が二万五千も積み重ねられていた。（２．５万円Ｘ２５，０００＝６２，５００万円＝６億２５００万円）。2-24-7-24だが、仕切（しき）りは、まだわずかにその半分だけが空（から）になったばかりだった。2-24-7-25両手に十ぱいほどの真珠（しんじゅ）や、宝石（ほうせき）や、ダイヤモンドなどを量り得たが、それらの多くは、当時のすぐれた貴金属（ききんぞく）職人（しょくにん）の手によって細工（さいく）され、その実質上の価値を別にしても、なおすばらしい細工品としての価値をもっていた。 2-24-7-26ダンテスは、日かげが低くなり、だんだん薄れていくのを見た。2-24-7-27彼は、この洞穴のなかになかにあって、突然（とつぜん）なにものかに襲（おそ）われることを恐れた。2-24-7-28彼は、銃を手にして外へ出た。2-24-7-29彼は、ビスケット一つと少量の葡萄酒だけで晩餐（ばんさん）をすませた。2-24-7-30それから石を元の場所に据え、その上に横になって、身をもって洞穴の入口をおおいながら、何時間（なんじかん）かのあいだぐっすり眠った。2-24-7-31この夜こそは、これまで二度三度、彼の味わった壮快（そうかい）な、と同時（どうじ）に怖ろしい夜の一つだった。

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引用者：2016/8/24　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義