２５（１）ジャコポを信頼

　２５（１）ジャコポを信頼

迎えの船を待つ身
2-25-1-1夜が明けた。2-25-1-2ダンテスは、目をあけたまま、長いことそれを待っていたのだった。2-25-1-3朝の光が射しそめたとき、彼は立ちあがって、昨日（きのう）のように島で一番高い岩にのぼり、周囲の形勢（けいせい）をうかがった。2-25-1-4前日（ぜんじつ）と異ることなく、あたりにはまったく人影（ひとかげ）がなかった。2-25-1-5ダンテスはおりてきて、石をもちあげ、ポケットに宝石をいっぱいつめこみ、一心（いっしん）に箱の板や金物（かなもの）を元（もと）どおりに直し、その上から土をかぶせてふみ固め、上から砂をかけて、掘り返したばかりの土が、他の地面と寸分（すんぶん）ちがわないようにした。2-25-1-6やがて、彼は洞穴を出た。

2-25-1-7そして石畳（いしだたみ）を元のとおりにした上に、大小（だいしょう）さまざまな大きさの石をあつめた。2-25-1-8隙間（すきま）には土を入れて、そこにミルトやヒースを植え、それが前からあったもののように見せかけようと水をかけ、そのあたりに散らばっていた自分の足跡（あしあと）を消した。2-25-1-9そして、いまは待遠（まちどお）しい気持で仲間の帰りを待っていた。

2-25-1-10事実いまこそは、このモンテ・クリスト島で、まるで大蛇（だいじゃ）が、なんの役にもたたぬ宝の番をしているように、これら黄金やダイヤモンドをながめ暮らしている時ではなかった。2-25-1-11いまこそ人生（じんせい）に立ち帰り、人々のあいだに立ち帰り、この富という、人間が自由になし得る最上最大の力を与えてくれる、地位（ちい）なり、勢力（せいりょく）なり、権力（けんりょく）なりを、社会にあって掌握（しょうあく）すべき時がきたのだ。

ジュヌ・アメリー号とジャコポ
2-25-1-12密輸入者たちは、六日目（むいかめ）になって帰ってきた。2-25-1-13ダンテスは遠くから、港と、ジュヌ・アメリー号の歩（あゆ）みとをながめていた。2-25-1-14彼は港まで、さも傷ついたフィロクテート（トロイ戦争における有名なギリシャの戦士）とでもいったように体を引きずって行った。2-25-1-15そして仲間（なかま）たちがそばへきたとき、まだ苦しみを訴えながらも、目に見えてよくなったことを話してきかせた。

2-25-1-16そして今度は、彼のほうから冒険者たちの話を聞かせてもらった。2-25-1-17彼らはみごとな成功をおさめていた。2-25-1-18だが、積荷がおろされるかおろされない間（あいだ）に、ツーロン（本はトゥーロン）警備のブリック（小さい帆船）が一艘（いっそう）、港を出て、こっちへ向かってくるという知らせを受けた。2-25-1-19そこで、これを限りと逃げ出した。2-25-1-20みんなは、船を走らすのにすぐれた腕前（うでまえ）をもっているダンテスが、あいにく指揮（しき）にあたっていなかったのを残念（ざんねん）に思った。2-25-1-21やがて、追捕船（ついほせん）の姿が目にはいった。2-25-1-22だが、夜になったのと、コルシカの岬をすでにまわっていたために、危（あや）うく逃げおおすことができたという話だった。

2-25-1-23けっきょく、大（たい）した不結果（ふけっか）な航海でもなかった。2-25-1-24そしてみんなは、とりわけジャコポは、彼がいっしょに行かなかったため、五十ピアストル（５０Ｘ１０Ｘ１０００＝５０万円）の利益（りえき）配当（はいとう）にあずかれなかったことを残念がってくれた。2-25-1-25ダンテスは、少しも相手に気取（けど）らせなかった。2-25-1-26島をあとにしていたらもらえたにちがいない利得（りとく）の話を聞かされても、彼は、微笑さえもみせなかった。2-25-1-27そして、ジュヌ・アメリー号は、ただ彼を迎えるために、モンテ・クリスト島にやってきたというわけなので、彼はその晩（ばん）船に乗りこみ、リブールヌ（ｇｏｏｇｌｅはリボルノ）にいっている船長の後を追った。

リボルノのユダヤ人宝石商
2-25-1-28リブールヌへ着いた彼は、一人のユダヤ人の店へ行って、小さなダイヤモンドを各々五千フラン（５，０００Ｘ１，０００＝５００万円）ずつで売り払った。2-25-1-29ユダヤ人としては、一介（いっかい）の船員がどうしてそんなものを手に入れたか、たずねてみたいところだった。2-25-1-30だが、べつになにもきかなかった。2-25-1-31というのは、一個あたり千フラン儲（もう）けられたからのことなのだった。

ジャコポにプレゼント
2-25-1-32翌日（よくじつ）、彼は真新（まあた）らしい一艘（いっそう）の船を買って、ジャコポに与えた。2-25-1-33そのうえ、乗組員（のりくみいん）を雇（やと）うためといって、さらに百ピアストル（１００Ｘ１０Ｘ１，０００＝１００万円）の金（かね）を与えた。2-25-1-34そして、その条件として、マルセイユへ行って、アレ・ド・メランに住んでいるルイ・ダンテスという老人と、カタロニヤ村に住んでいたメルセデスと呼ばれる少女の消息（しょうそく）を聞いてきてほしいとたのんだ。

引用者：2016/8/24　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義