２５（２）自前のヨット

リボルノにて 2-25-2-1ジャコポにとっては、まるで夢（「ゆめ）に夢見る心地（ここち）だった。2-25-2-2ダンテスは、自分が船員になったのも、じつはふとした気まぐれからで、つまり自分の家族が自分に必要なだけの金をくれることを拒（こば）んだからだ、ところが、リブールヌにきて、おれは自分をただ一人の相続人に選んでくれた伯父（おじ：父母の兄）の遺産（いさん）を相続（そうぞく）することになったのだ、と説明してやった。2-25-2-3ダンテスのすぐれた知能（ちのう）は、こうした話をいかにもほんとらしいものに思わせることに成功した。2-25-2-4そっして、ジャコポは、少しのあいだも、その真実（しんじつ）さを疑ったりはしなかった。 2-25-2-5一ぽう（いっぽう）、ジュヌ・アメリー号の乗組員としての契約は、ちょうどその期限に達していた。2-25-2-6そこで、彼は船長に言って暇（ひま）をもらった。2-25-2-7船長は最初（さいしょ）引き留（と）めようと試みた。2-25-2-8だが、ジャコポの口から相続（そうぞく）の話を聞かされて、ダンテスの決心（けっしん）を翻させることをあきらめてしまった。2-25-2-9ジャコポは、翌日（よくじつ）マルセイユへ向かって出帆した。2-25-2-10そしてダンテスとはモンテ・クリスト島で会う約束をした。2-25-2-11おなじ日に、ダンテスは、ジュヌ・アメリー号の乗組員にすばらしい心づけを与え、そして、船長には、他日便りをするという約束をしたのち、どこへとも言わずに出発した。 ジェノバにて 2-25-2-12ダンテスはジュノワ（Ｇｏｏｇｌｅではジェノバ）へ行った。2-25-2-13彼がそこへ着いたとき、ちょうどあるイギリス人の注文（ちゅうもん）による小さなヨットの試乗（しじょう）がなされていた。2-25-2-14そのイギリス人は、ジェノワ人が地中海（ちちゅうかい）きっての船大工（ふなだいく）であることを伝え聞いて、ジェノワ製のヨットを一艘（いっそう）手に入れようとしたのだった。2-25-2-15イギリス人は、四万フラン（４０００万円）出そうという契約をしていた。2-25-2-16ダンテスは、船を即日（そくじつ）引き渡すなら、六万フラン（６０００万円）出そうと言った。 ユダヤ人宝石商 2-25-2-17イギリス人は、船のできあがりを待つ間、スイス一周（いっしゅう）に出かけていた。2-25-2-18帰ってくるのは三週間の後、あるいは一ヶ月ののちにもなろう。2-25-2-19船大工は、その間にもう一艘（いっそう）造（つく）りあげる暇（ひま）があると考えた。2-25-2-20ダンテスは、船大工をつれて一人のユダヤ人の店に出かけて行き、ユダヤ人といっしょに奥の間（おくのま）へとおった。2-25-2-21しばらくして、ユダヤ人は出てきて、船大工に六万フランの金（かね）を渡した。 2-25-2-22船大工は、ダンテスに、自分の手で乗組員を揃（そろ）えることを申し出た。2-25-2-23だが彼は、自分はいつも一人で船に乗る習慣（しゅうかん）なのだといってことわった。2-25-2-24そして、だた一つ頼みたいことがあると言って、船室のなかの、ベッドの枕もとのところに、秘密の手（て）箪笥（だんす）といったようなものをこしらえ、それに誰も気がつかないような三つの仕切りをつけてもらいたいと言いながら、その仕切（しき）りの寸法を与えた。2-25-2-25それは、翌日には『ちゃん』とととのえられていた。 2-25-2-26二時間ののち、ダンテスは、いつも一人で船旅（ふなたび）をすることにしているこのスペイン貴族を見ようという物見（ものみ）高い連中（れんちゅう）に送られながら、ジュノワ港（こう）から出て行った。2-25-2-27ダンテスの手並（てなみ）は鮮（あざ）やかだった。2-25-2-28舵（かじ）のたすけにより、またそれを取りはずしたりする必要なしに、彼は船を思うとおりにあやつっていた。2-25-2-29まるで、船にも智力（ちりょく）があって、ちょっとした刺戟（しげき）を与えられただけで、すぐそれにしたがう心がまえができているとでもいうようだった。2-25-2-30ダンテスのほうでも、心のなかに、ジェノワ人はたしかに世界きっての船大工（ふなだいく）の名に値すると考えていた。 2-25-2-31物見高い連中は、船が見えなくなるまで目を放さなかった。2-25-2-32そのあとでは、いったい、どこへ行くのだろうということについて議論しあっていた。2-25-2-33或るものはコルシカだろうと言った。2-25-2-34或るものはエルバ島だろうと言った。2-25-2-35或るものはスペインだ、賭けをしてもいいと言い、或るものはアフリカへ行ったのだと主張（しゅちょう）した。2-25-2-36だが誰ひとり、モンテ・クリスト島の名を挙（あ）げるものはなかった。

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引用者：2016/7/10、8/(24-　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義