２５（３）二つの消息の悲しき

2-25-3-1だが、ダンテスの向かったのは、まさにモンテ・クリスト島にほかならなかった。2-25-3-2彼は二日目（ふつかめ）の終りごろにそこに着いた。2-25-3-3船はまさに絶好（ぜっこう）の帆船で、島まで三十五時間で走ってしまった。2-25-3-4すっかり海岸線の形状（けいじょう）を見てとっていたダンテスは、港にはいるかわりに、例の小さな入江（いりえ）に投錨（とうびょう）した。2-25-3-5島にはまったく人かげがなかった。2-25-3-6ダンテスが島をはなれてから、誰も船をつけたものもなかったらしい。2-25-3-7すべては、彼がそこを離れたときとまったく同じ状態だった。 2-25-3-8翌日、ヨットの上には莫大（ばくだい）な財産が運ばれ、そこにあった秘密（ひみつ）箪笥（たんす）の三つの仕切りのなかにおさめられた。2-25-3-9彼は島に、一週間（いっしゅうかん）滞在（たいざい）した。2-25-3-10その一週（いっしゅう：七日間）日（び）の間（あいだ：かん）、彼はヨットで島の周囲を乗りまわし、さも馬術師（ばじゅつし）が馬を調べるといったようにその性能（せいのう）をしらべてみた。2-25-3-11そうした日を過したあとで、彼は船のあらゆる長所（ちょうしょ）とあらゆる短所（たんしょ）を 見きわめてしまった。2-25-3-12ダンテスは、その長所をさらに発揮（はっき）させ、その短所を改めてやろうと考えた。 2-25-3-13八日目（ようかめ）のこと、ダンテスは、一隻（いっせき）の小さな船が、帆をすっかり張ってこの島（しま）目（め）がけてやってくるのを見た。2-25-3-14そして、それがジャコポの船であることを知った。2-25-3-15彼は合図（あいず）をした。ジャコポのほうでもそれにこたえた。2-25-3-16二時間の後、船はもうヨットのそばまでやってきていた。2-25-3-17ダンテスの発した二つの問（とい）にいたいして、おのおの悲しい答えがもたらされた。 2-25-3-18老ダンテスは、いまは亡き人のなかに入っていた。 2-25-3-19メルセデスは、ゆくえ不明になっていた。 2-25-3-20ダンテスは、この二つの消息（しょうそく）を、平静な面持（おももち）で聞いていた。2-25-3-21だが、彼はすぐに陸にあがって行った。2-25-3-22そして、誰にもついてきてはならないと言った。 2-25-3-23二時間の後、彼はかえってきた。2-25-3-24ジャコポの船の二人の男は、ダンテスのため、彼のヨットのほうへ乗りうつることになった。2-25-3-25そして、ダンテスは、舳（へさき）をマルセイユへ向けるようにと命令した。 2-25-3-26彼は父の死については予測していた。2-25-3-27だが、いったいメルセデスはどうなったのか。2-25-3-28自分の秘密を明かさずには、じゅうぶんな材料を警官に与えるわけにいかなかった。2-25-3-29他に知りたいと思うこともいくつかあった。2-25-3-30そのためにも、彼としては自分ひとりを頼りにするより道がなかった。2-25-3-31リブールヌの床屋（とこや）でのぞいた鏡（かがみ）は、自分が人に見あらわされる危険のないことを教えてくれていた。2-25-3-32それにいまでは、あらゆる変装の手段（しゅだん）にしても、思いのままというわけだった。 2-25-3-33或る朝のこと、彼のヨットは、うしろに小さな船を従えながら、敢然（かんぜん）としてマルセイユの港にはいって行き、あの運命的な思い出の晩（ばん）、シャトー・ディフに行く船に乗せられたのと同じ場所に碇泊（ていはく）した。

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引用者：2016/8/25　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会