（２５）ナポリの夜景(やけい)

ナポリは昔のナポリならず 1-5-25-1ボッカチオが青春（せいしゅん）の血（ち）を燃（も）やしたナポリの町並（まちな）みはその後（ご）大幅（おおはば）に変容（へんよう）して、当時（とうじ）の面影（おもかげ）をとどめていない。1-5-25-2フィアンメッタとの運命（うんめい）の出会（であ）いの場所（ばしょ）とされるサン・ロレンツォ聖堂（せいどう）も、ファサード（意味：聖堂全面の装飾壁）が十八世紀（じゅうはっせいき）に全面改装（ぜんめん）（かいそう）され、わずかに大理石（だいりせき）の正面（しょうめん）大扉（おおとびら）だけがアンジュー王家（おうけ）の世紀（せいき）の名残（なごり）をとどめている。 ベスビオ火山とナポリ湾の夜景をイメージ 1-5-25-3それよりも、ソレントへ行くかカプリ島（とう）に渡（わた）るかして、そこからナポリ湾（わん）の夜景（やけい）を見るがいい。1-5-25-4赤（あか）い火（ひ）を噴（ふ）くベスビオ火山（かざん）を背景（はいけい）にして、暗（くら）い波間（なみま）に漁火（いさりび）が揺（ゆ）れる。1-5-25-5その彼方（かなた）に明（あか）るい夏（なつ）の陽射（ひざし）しを浴（あ）びて船遊（ふなあそ）びをする美女（びじょ）の幻影（げんえい）が浮（うか）べば・・・・それで充分（じゅうぶん）ではないか。 ピサの壁画(へきが)にペスト禍(か)の黙示(もくし) 1-5-25-6それでもなおその美女（びじょ）の運命（うんめい）を追（お）いたいならば、半島（はんとう：＝イタリヤ）を北上（ほくじょう）してピサまで行（い）くことだ。1-5-25-7有名（ゆうめい）な斜塔（しゃとう：＝ピサの斜塔）のある大聖堂（だいせいどう）広場（ひろば）の奥（おく）に、カンポ・サントと呼（よ）ばれる壮麗（そうれい）な墓廟（ぼびょう）がある。1-5-25-8その建物（たてもの）の壁（かべ）を彩（いろど）る一群（いちぐん）の壁画（へきが）の中に、『死の勝利』の画面（がめん）を見出（みいだ）すであろう。 1-5-25-9遊（あそ）び戯（たわむ）れる優雅（ゆうが）な若（わか）い男女（だんじょ）のすぐ側（そば）で、死神（しにがみ）が霊魂（れいこん）の刈入（かりい）れにとりかかっている。1-5-25-10ボッカチオの時代（じだい）の人々（ひとびと）があのペストの惨禍（さんか）をどのように受（う）け止（と）めたか、この絵（え）はどんな文献（ぶんけん）よりも明快（めいかい）に語（かた）ってくれる。 1-5-25-11比喩的（ひゆてき）なイメージと現実（げんじつ）のイメージ、貴族（きぞく）と民衆（みんしゅう）、隠遁（いんとん）生活（せいかつ）と世俗（せぞく）生活（せいかつ）、楽（たの）しげな集（つど）いと山（やま）なす死体（したい）とが、単一（たんいつ）の大画面（だいがめん）の中に凝縮（ぎょうしゅく）され、対置（たいち）されているのである。1-5-25-12そして天空（てんくう）では、天使（てんし）と悪魔（あくま）が死者（ししゃ）の霊魂（れいこん）の争奪（そうだつ）を演（えん）じている。1-5-25-13ペスト禍（か）の直後（ちょくご）に描（か）かれたと思（おも）われるこの傑作（けっさく）の作者（さくしゃ）は、「死の勝利の画匠（がしょう）」と呼（よ）ばれるばかりで、正確（せいかく）な名前（なまえ）は今（いま）は誰（だれ）にも分（わ）からない。

ボッカチオの青春・フィアンメッタのナポリ慕情 ナポリ湾写真とピサの壁画「死の勝利」

（６）銀行家コジモ・デ・メディチ

ミチオ書・第一部・（文章）歴史物語・藤沢道郎 ページ製作者：ささくら修道会　笹倉正義

2014/9/1、2016/1/9、2017/2/18、2019/1/23 （ささくら宗）聖母マリヤ福音教会：通称：「オリジナル教会」