(4)マティルデの母の名はベアトリーチェ

カノッサの君主ポニファツィオの支配地にフィレンツェ 1-2-4-1今は人里（ひとざと）離（はな）れた古城（こじょう）の跡（あと）に過ぎないカノッサも、当時は中部イタリヤ一帯（いったい）に勢威（いせい）を張る大領主ボニファツィオの本拠（ほんきょ）で、ようやく勃興（ぼっこう）し始めたトスカーナの自治（じち）都市ルッカやフィレンツェも、彼の支配下（しはいか）に置かれていた。 1-2-4-2ロレーヌ公家から迎えた妃（きさき）ベアトリーチェとの間に一人の息子（むすこ）と二人（ふたり）の娘をもうけ、その姉娘（あね）の方がマティルデである。 ベアトリーチェ この名を見た読者のうちの何人かは、それがダンテの永遠の女性の名に接続されることだろう。しかり、神曲「煉獄篇」、「天国篇」のベアトリーチェはフィレンツェの町娘ではなく、この女性、マティルデの母である。ダンテが逃亡し、神曲の構想を練った地は、このトスカーナ地方だったから、フィレンツェの町娘からその中身を入替えたのである。それについては2018年に一度、次のように考察している。 ダンテの「マテルダ」考　「マテルダ」は「神曲」訳者の呼称 ダンテといえば「神曲（地獄）（煉獄）（天国）」であり、このコメディア（奇談）の登場人物は作者自身とその作者を想起させる名前「ベアトリーチェ」である。ベアトリーチェはフィレンツェの町娘の名前で、ダンテの片想いの相手である。 それで、その町娘が天界の高貴な女性として、煉獄編と天国編に登場する。しかし、その煉獄編の最後に突如として「マテルダ」の名前が現れる。このマテルダが誰なのか、マテルダとベアトリーチェの関係はどうなのか、との疑問が湧く。(2018/12/14) その疑問を解くのが、このミチオ書の記事である。フィレンツェの北方に位置するボローニャ、パドバ、ラベンナは政局に敗れたダンテの逃亡先である。彼は追っ手にびくびくしながらも持ち前の鼻っ柱の強さがわざわいして、一つの町にとどまることはできなかった。神曲の着想は、落成間近だったパドバのスクロベニ礼拝堂正面に描かれた「地獄絵」だった。建築主のスクロベニが冥界に赴き、礼拝堂を3人の女性に捧げている。聖母マリヤ、ベアトリーチェ、マティルデと思われるのである。 1-2-4-3ボニファツィオは辣腕（らつわん）の領主で、支配権を拡大し自己の権力を富ませるために手段を選ばなかった。1-2-4-4聖界刷新（さっしん）の運動を支持し、改革派の修道士を保護したが、それは信仰心や正義感からではなく、教会内の対立を助長し、高位（こうい）聖職者から領地や特権を没収（ぼっしゅう）する口実（こうじつ）を得るためにほかならなかった。 これはまさに、いなかの一修道士にすぎぬルターを「宗教改革者」にまつりあげた、反教皇、反神聖ローマ皇帝の領主たちの思惑に、「そのまま」一致する。 領民の初夜を奪う専制君主、ポニファツィオの暗殺 1-2-4-5領民に対しては絶対的な独裁者で、彼の領内では女性は彼の許可なしに結婚することはできず、その許可を得るために美しい娘は彼に初夜（しょや：＝結婚した二人がはじめて性交する二人だけの夜）をささげ、醜（みにく）い娘は冥加金（みょうがきん：＝お礼として上納するお金）を払（はら）わなければならなかった。1-2-4-6そんな暴君だったから敵は多く、ある日狩猟（しゅりょう）に興（きょう）じているところに一本の毒矢が飛来（ひらい）、ボニファツィオはあえなくその生涯を終えた。1-2-4-7恨（うら）みを抱（いだ）く者の数があまりに多すぎたから、下手人（げしゅにん：＝犯人）を特定することは不可能であった。 母ベアトリーチェと娘マティルデ 1-2-4-8父が殺された時、マティルデはまだ幼（おさな）かった。1-2-4-9父は広い領地と数多（かずおおく）の城塞（じょうさい）を遺（のこ）してくれはしたが、内外に無数の敵を作ったまま死んだことも確かだったから、幼児三人を抱（かか）えて寡婦（かふ）となった母のベアトリーチェは途方（とほう）に暮れた。 1-2-4-10トスカーナの司教たちはこの機（き）逸（いっ）すべからずと反撃に出、都市は暴動を起こし、皇帝ハインリヒはイタリヤ遠征（えんせい）を企（くわだ）てていた。1-2-4-11女手（おんな）一（ひと）つでこの難局に立ち向うのは不可能である。 再婚相手に同郷の武将ゴッフレード 1-2-4-12彼女は急いで再婚の相手を探し、同郷ロレーヌ出身（しゅっしん）の武将ゴッフレードに白羽（しらは）の矢を立てて、その保護に頼ることにした。

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文番号の採番方法（二分冊の文番号をユニークにする） （本１、２）−（物語番号１−１８）−（章）−文番号

ミチオ書・第一部・（文章）歴史物語・藤沢道郎 ページ製作者：ささくら修道会　笹倉正義

2014/9/14、2017/2/13、2018/12/14、2021/2/13 （ささくら宗）聖母マリヤ福音教会：通称：「オリジナル教会」