(8)川底(かわぞこ)の霊廟(れいびょう)

皇帝、ガラの婚礼を認めず、婚約者をたてた 1-1-8-1もちろんホノリウス帝はそんな恋愛を認めるはずがなく、妹と寵臣（ちょうしん）コンスタンティウスとの婚約を勝手に取り決めてしまった。1-1-8-2ヨビウス失脚後（しっきゃく）（ご）、ラベンナ宮廷で側近（そっきん）第一号の地位を占（し）めていたコンスタンティウス将軍はイリリウムの生まれでもう若くはなく、その上醜男（ぶおとこ）だった。1-1-8-3太い猪首（いくび）の上に丸い大きな頭が載（の）っていて眼光（がんこう）炯々（けいけい：＝目が鋭く光るようす）、その騎馬姿は馬の首に馬鈴薯（ばれいしょ：＝じゃがいも）の袋をくくりつけたように見えた。1-1-8-4だが容姿（ようし）はこうでも彼はなかなかの快男児（かいだんじ）で、特に宴席（えんせき）では人気（にんき）抜群（ばつぐん）、大いに健啖（けんたん：＝食欲おうせいで、たくさん食べること）ぶりを発揮（はっき）し、ほどよく飲み、余興（よきょう）に呼んだ芸人（げいにん）に混（ま）じって好んでパントマイムを演じ、卑猥（ひわい：＝下品でみだらなこと）なアドリブも辞さない。 1-1-8-5武将としても優秀で、アルルの戦で僭帝（せんてい）コンスタンティヌスを破り、捕虜にしたのは彼である。1-1-8-6ホノリウス帝はいつもの手で、僭帝の助命を厳粛（げんしゅく）に誓約した後あっさりと斬首（ざんしゅ）に処し、コンスタンティウスをこの戦功（せんこう）によって皇妹と婚約させたのである。 アラリック病死 1-1-8-7南へ進軍を続けたゴート軍、カンパニアからカラブリアに入り、レッジョからシチリアに渡ろうとしたが、コセンツァ郊外（こうがい）でアラリック王が急性の熱病に襲われ、数日後あっけなく世を去った。1-1-8-8シーラ山に発してティレニア海に注（そそ）ぐブセント川の川底が霊廟（れいびょう）の場所に指定された。1-1-8-9この地に亡骸（なきがら）を埋めよと故人（こじん）は遺言（ゆいごん）していた。 1-1-8-10ドナウ河畔（かはん）に生まれ育った彼は、故郷（こきょう）の川に幾分（いくぶん）かでも似たブセント川の流れの底に、永久に眠りたかったのだろう。1-1-8-11将兵は数千の奴隷を使って河流（かりゅう）を堰（せ）き止め、その川床（かわどこ）に墓を造営（ぞうえい）し、それからまた流れをもとに戻し、さらに念を入れて、墓の正確な位置が誰にも分からぬよう、工事に関係した奴隷や工匠を全員殺害した。

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文番号の採番方法（二分冊の文番号をユニークにする） （本１、２）−（物語番号１−１８）−（章）−文番号

ミチオ書・第一部・（文章）歴史物語・藤沢道郎 ページ製作者：ささくら修道会　笹倉正義

2014/9/13、2017/2/12、2018/12/13、2021/2/1 （ささくら宗）聖母マリヤ福音教会：通称：「オリジナル教会」