（９）墓じまい

　（９）墓(はか)じまい

今年のはじめ、田舎の弟から届いたハガキには、後継者がいないし、「墓じまい」を考えている、と書いてあった。わたしが何か言える立場ではないし、黙っていた。

わたしがまだ若かったころ、二十代の前半、仏縁ともいえる成り行きで、造成中だった「高野山大霊園」の使用権を買った。お墓を買ったとは、両親には言いにくく、「信仰碑」と呼んだ。生前に自分でお墓を買うと、そこに吸い込まれるということも懸念された。その縁で、そこに母方の祖母を、わたしの父母と兄弟とが連れてきた。祖母が、お大師様が出迎えてくれるという、奥の院の橋を渡るのを見たとき、感動したわたしは信仰碑の意味を悟った。祖母は、若い頃から、お大師様を信仰していたのだった。

その後、わたしは、キリスト教会にいく縁があって、信仰告白に続いて、洗礼を受けた。大霊園の入り口のお地蔵さんが気になりだしていた頃、会社の独身寮を「定年」で追い出され、大阪市の加美に住んでいたが、「大阪市メモリアル・パーク」の広告が目に入った。そして現地に行った。墓地公園を見てまわり、すでに設置されている石碑を見ていたら、母子のものと思われるものが目に入った。夫を亡くして、女手ひとつで育てあげたものか、その自分の想像に、感動してしまった。

わたしは思った、この公園墓地にふさわしいメモリを残せる家庭をください、と。それで、石碑の文字を「笹倉家メモリアル」としたのだった。これも、お墓ではないのだった。

わたしが結婚したのは、そのすぐ後だった。しかし、子供が自分の意思で行動を始めたとき、わたしの祈りが不足していたことに気がついた。でも、あとのまつり。過去に遡って、お祈りを追加するなんてできない。

わたしは、キリスト教の説明書を作りはじめた。確固とした動機や祈りがあったわけでもなく、キリスト教会からの要請でもなかった。キリスト教会はわたしの存在すら知らなかったし、その逆も真というわけだった。奇跡は、その最初に起こった。それは、誰でも最初にすると思うが、四つの福音書を比較することだった。そこで気になったのが、「ルカによる福音書」の献呈者、「テオピロ閣下」は誰だろうということだった。インターネットで検索したら、その名前は匿名だ、という書き込みがあった。それを見た瞬間に、わたしはテオピロが、イエスにほめられた異邦人、カペナウムの百卒長だとわかったのだった。新約聖書は、このテオピロの信仰にはじまっていたのだった。説明書作成は、一年はおろか、延々と時間を費やすことになったのだった。「お父さんは、おじいさんになるかも知れない」と言われた子は、いま七歳になる。

説明書というものには、対象となる物があり、依頼主がある。わたしは、誰の依頼でキリスト教の説明書を作っているのだと思ったとき、そして何ができるのか自分でもわからなかったとき、ひとつの教会をつくって、その権威のもとで、作業を続けたのだった。わたしは、常に、何かに導かれるように、おのずと高みに、見渡しのよいところに向かった。

わたしは、「おまえはカトリックの説明書をつくっているのか」と、人に言われかねないところに出た。それは、わたしが聖母マリヤを、彼女の非凡さを、「ルカによる福音書」に見るようになったからだと思う。プロテスタントが隠蔽を続ける聖母マリヤの栄光を、わたしが見ているからだと思う。ここにきてわたしは、キリスト教会は、ローマ・カトリックに帰すべき、という思いを持ち、教会の名前を「ささくら修道会」にしたのだった。

わたしは、「墓じまい」を考えている者と、「修道会」を設立・指揮してキリスト教の布教を考えている者の間には、大きな深淵（しんえん）があることを思わざるを得ない。それは、どんな言葉をもってしても、分かり合えないという意味である。わたしにとって、「信仰碑」と「笹倉家メモリアル」は、用済みである。

いつか「父と子」、すなわち信仰の家族ができ、バチカンに「ささくら修道会」設立の許可を受けに行く日があるかどうか、わたしは知らない。それは、わたしを導かれた方が、あるいはその力が、お決めになることなのだ。信仰は、それはすでに成就した、とわたしに告げている。そして、わたしにはお墓は要らないこともわかった。

ただ、お墓は宗教を表現するものではあるから、布教活動に寄与する場合もある。先祖代々の宗教を受け継ぐのもよいと思うが、自分が出会い、強い感銘を受け、その信仰心が照らす宗教への帰依（きえ）は、その選択を、ご先祖さまは喜んでくださるであろう。なぜなら、ふつう、子がより良いものに到達したことを喜ばぬ親はないからだ。まして、ご先祖さまならなおさらだ。

わたしは、マンションの管理人をしているが、何年も前に、ゴミ置き場にアルバムが捨ててあるのを見た。家族の写真の詰まったものがそのまま捨ててあった。わたしの心はなぜか痛んだ。ディジタル社会では、「メモリアル」は、どんどん増える。生きたあかしをゴミとして捨ててしまっていいのか。キリスト教会は、その「メモリアル」の問題に解決を与えてやれないのだろうか。

ページ制作者：　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
2016/7/17（題目のみ）、2017/9/2、3
2023/12/12