（１）最初のつまづき （１）最初のつまづき
| 懸念していた台風は、その二週間ほど前から、南方海上に発生しなかった。航空機が飛行に影響を受けるのは台風だったから、内心気をよくしていた。そして、旅行初日をむかえ、快適なスタートが約束されているはずだった。 モノレールの終着駅から徒歩で、伊丹空港の受付カウンターに急いでいた。急ぐ必要など全然なかったのに、ぼくにくらべて身軽なＡは、すたすたと先に行ってしまった。モノレールから空港ビルまでの間では、何か工事をしていて、その養生物によってＡの姿はさえぎられて見えなくなっていた。ぼくは中型のスーツケースを両手で押していた。地面は工事の応急処置なのだろうか黒く舗装されていた。その地面は、進行方向に向かって、右側に傾斜していたのだとわかったのは、前方に転倒してからだった。 左手のスーツケースが前に転倒し、自分もそれにつられるかたちで、前方に転倒したのだった。すぐに起き上がり、体制を立て直したが、左足の先（外反母趾）のあたりに違和感があった。「だいじょうぶですか」と、さっきエレベータで乗り合わせたベビーカーの若いママが後ろから声をかけてくれた。Ａは、ぼくが転倒したことや、人から声をかけられたことは、さきを進んでいたし、振り向いたとしても見えない位置にいたから、知らない。 鈍痛のようなものはあるが、歩くことには、支障はないようだった。このダメージがどの程度のものなのか、すぐにはわからず不安になった。骨にひびがはいっていたり、はれあがって靴を履くのが困難になれば、旅行は中止になる・・・・。こうしてぼくの旅行は、最初の最初からつまづきで始まることになったのだった。足先の鈍痛は、ひどくならず、ときどき忘れることもできるほどだったので、ありがたかった。これは、さらなる大きな転倒などから守られたのかもしれなかった。ぼくはビデオ・カメラを常時手にして撮影していたから。帰国後も、ときどき鈍痛があったので、骨ではなく、神経を損傷したのかも知れなかった。 最初の宿泊地のカターニャと翌日のタオルミーナの午前中は雨だった・・・・。その地から見えるはずのエトナ山は、雲にさえぎられて、ほんの裾しか見えなかった。おお！なんと暗い旅行のスタートになったことだろう！ |
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