（２４）ヘクトルの葬儀

第二十四歌（Ｐ４１５） (24-760)(24-761)(24-762)(24-763)(24-764)(24-765)(24-766)(24-767)(24-768) (24-769)(24-770)(24-771)(24-772)(24-773)(24-774)(24-775) 泣きながらこういって、止めどもない泣き声をまた甦（よみがえ）らせると、三番目にはヘレネが、女たちの歎（なげ）きの音頭（おんど）をとっていうには、「ヘクトル、あなたは数多い夫の兄弟方の中でも、とりわけわたしには大切なお人（ひと）でした。ええたしかに、わたしをトロイへ連れて来たあの美貌（びぼう）神（かみ）の如きアレキサンドロスがわたしの夫なのです。わたしはそうなる前に死んでいたら、どんなによかったでしょう。 故国（ここく）を離れてこちらへ来てからもうはや二十年目になります。でもわたしはかつて一度もあなたの口から、意地の悪い、蔑（さげす）むような言葉を聞いたことはありませんでした。それどころか屋敷の中で、夫の御兄弟とか御姉妹たち、または美しく装（よそお）った御兄弟の嫁御たちのどなたかが、それにまたお姑（カア）様が−−−お舅（とう）様はいつも実の父親のように優しくして下さいましたが−−−わたしをお咎（とが）めになる時は、あなたはあなたらしい優しいお気持と、もの柔らかなお言葉で、その方をなだめて下さいました。 ですからわたしは辛くてならぬ気持ちから、あなたのために泣くのと一緒に、不運な自分のためにも泣いているのです。わたしにはこの広いトロイの国で、あなたの他には優しくしてくれる親しい人は一人もいないし、誰もがわたしを見ると悪いものを見たように身を震わすのですから」。(24-760-775) (24-776)(24-777)(24-778)(24-779)(24-780)(24-781) 泣きながらこういうと、無数の群衆もそれを聞いて悲しみの声をあげた。この時王プリアモスは、群衆に語りかけていうには、「さあトロイ人たちよ、薪（たきぎ）を町へ運んでくれ。アルゴス勢が巧みに伏兵を構（かま）えはせぬかと恐れる必要はない。アキレスは黒塗りの船からわしを送り出す折に、十二日目の朝が来るまでは、こちらに危害を加えるようなことはせぬ、と約束してくれたからだ」。(24-776-781) (24-782)(24-783)(24-784)(24-785)(24-786)(24-787) こういうと、一同は何台もの車に馬や騾馬（らば）を繋ぎ、そうしてから急いで町の前に勢揃（せいぞろ）いする。九日にわたって夥（おびただ）しい量の薪（たきぎ）を運んだが、十日目の暁（あかつき）が人みなに光をもたらしつつ姿を現わすと、豪勇ヘクトルの遺体を涙のうちに運び出し、薪の山の一番上に遺体を置いて火をつけた。(24-78-787) (24-788)(24-789)(24-790)(24-791)(24-792)(24-793)(24-794)(24-795)(24-796) (24-797)(24-798)(24-799)(24-800)(24-801)(24-802)(24-803)(24-804) 朝のまだきに生まれ指は薔薇（ばら）色の暁の女神が姿を現わすと、その名も高きヘクトルの火葬の場に、町の住民たちが続々と集まってくる。やがて一所（いっしょ）に集合し終ると、燃える薪にきらめく葡萄酒をかけて、火勢（かせい）の及んだ限りにわたって火を消した。 ついで兄弟たち、戦友たちが白い骨を集めたが、泣きながら骨を拾う者たちの頬（ほお）を伝って、大粒の涙がこぼれ落ちる。拾った骨は柔らかな紫の布に包んで、黄金の壺に納める。それをまたすぐに、空（うつ）ろな穴に沈め、その上に大石を隙間なく置き並べる。手早く塚を盛り上げ、塚のまわりには、脛当（すねあて）良きアカイア勢が、早目に攻め寄せることもあろうかと、警備の者たちを配置した。 塚を築き上げてその場を去り、型の如く寄り集まって、ゼウスの庇護を受ける王プリアモスの屋敷の内で、盛大な供養の宴席に就いた。馬を馴（な）らすヘクトルの葬儀はこのように営まれたのであった。(24-788-804)（完） ---訳註（注釈）、伝ヘロドトス作「ホメロス伝」、タンタロス家系図、トロイ王家系図、地図。

（完）

トロイ戦争は、紀元前１２００年のころとされる。旧約聖書の「出エジプト記」のころである。その物語は、盲目の吟遊詩人たちによって作られ、個々のパーツとして伝承された。紀元前８００年ごろ、旧約聖書の「列王紀」のころ、ホメロスによって連続した物語としてまとまられた。ただ、ホメロスとは誰かは定かでない。紀元前３５０年ころのソクラテスは、ホメロスの「イリアス」と「オデッセウス」引用するが、吟遊詩人の語りを聞き、また図書館でこれらの断片を読んだのであろう。

2015/3/30 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会