８（９）母神の御身

　８（９）母神の御身(おんみ)

○（８－９）母神ウェヌスがウォルカヌスを褥に導きアエネアスへのプレゼント
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だがこの頃ウェヌスは、母親としては当然ながら、心を痛めていた。ラウレンテス人たちの脅威を思うと、どうしてもじっとしていられなかった。彼女は夫（ウォルカヌス）の黄金の寝室で、こんなふうにウォルカヌスに語りかけ、彼の心に恋心を吹き込んだ、「アルゴス（ギリシャ）人の王たちがペルガマの城を攻めているあいだは、わたしも辛抱（しんぼう）しましたわ。あれは仕方なかった。どんなふうにしてみても砦は、結局敵の炎で焼け落ちることになってしまうのですものね。

本当に可愛そうでしたが、わたしは助けをお頼みしませんでしたわ。あなたのアイデアと匠技（たくみわざ）による武器がとても欲しかったのですけれど。だって、無駄になるとわかっていて、愛する旦那さまにお手間をおかけするようなことはできませんもの。でもプリアムスの子たちには悪いことをしてしまいました。アエネアスの難儀な人生にもほおとほと泣かされましたわ。(8-370-380)

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しかし今は事情が変わりました。あの子はユピテルのお指図（さしず）をいただいてルトウリ人の岸辺に立っているのです。ですから今回わたしは、子の母としてお願いに来たのです。あなたの神のお力で、どうぞ武器を鍛えてやってくださいまし。老海神（ネレウス）の娘（アキレスの母ティティス）も、ティトヌス(4-594)の妻も、泣いてあなたを動かしました。見てごらんなさい。兵（へい）たちが集まって、城門を閉じて槍を磨いていますでしょう。あれはわたしを狙っているのです。わたしの家族を滅ぼす魂胆（こんたん）なのです」。(8-381-386)

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女神はこう言い終えると、雪のように真っ白な両腕で、ためらう夫の身体をやさしく抱きかかえていき、ぎゅっと抱きしめた。すると突然、夫の身体にいつもの炎が燃え上がった。覚えのあるあの熱い快感が骨髄に入り込み、力の抜けた骨格を通って駆けていった。それは突如（とつじょ）雷鳴（らいめい）がごろごろと轟き、稲妻（いなずま）が黒雲を貫（つらぬ）いて駆け走るさまにそっくりだった。妻は自分の企（たくら）みが成功したのを確認すると、自らの美しさの力に自信を覚えて喜んだ。父なる神は、永遠の愛の力にすっかり籠絡（ろうらく）されて言った、(8-387-394)

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「なにもそんな遠まわしの言い方をせんでええじゃないの。わしとおまえの仲じゃ。そうじゃないかね、わが女神殿。あの時（トロヤ戦争時）も、言うてくれたら、テウクリ人の装備など、わしらに用意できぬことはなかった。

全知全能の大神（オムニポテンス：ユピテルのこと）も、運命（さだめ）も、トロヤが存続することを禁じていたわけではないのじゃ。プリアムスにしてももう十年くらいは長生きできたはずじゃ。今もな、お前の覚悟ができていて、戦（いくさ）の準備が済んでいるのならそれでええのじゃ。どんな難題でも言うてくれい。

鉄と銀合金（エレクトウルム）を溶かして何でも作ってみせる。火が燃えて、鞴（ふいご：かじ屋などが火をおこす時に使う道具）の風がふくかぎりわしは働く。おまえがそんなに下手（したて）に出るなど、おまえらしくもなかろうが」。こんなことを言いながらウォルカヌスは抱擁（ほうよう）に応じていった。そして四肢（よんし）をのばして妻の肉体に自分の身体をぴったりと埋（うず）め、穏やかな眠りにつきたもうた。(8-395-406)

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さて、夜も行路（いくみち）の半（なか）ばを回（まわ）り、身体の元気が回復すると、神は眠りを追い払った。それはまさしく紡錘（ぼうすい）仕事で生活を支え、ミネルワの技（機織：はたおり）で細々と生計（せいけい）を立てる女が、灰を掻（か）いて眠れる火を起し、灯（あかり）をともして下女（げじょ）たちに、長い一日作業に就（つ）かせる時間だった。

夫の寝床（ねどこ）を清浄に保つため、幼い子供たちを育てるため、女はかかる営みをする。勤勉さでは引けをとらぬかの炎火（えんか）大明神（だいみょうじん：イグニポテンス：ウォルカヌスのこと）もこの時間、早くも柔らかな褥（しとね）を離れ、職人仕事へ赴（おもむ）いていった。(8-407-415)

2015/11/23 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会