４（２）恋の病

○（４−２）ディドの恋心 (4-54)(4-55)(4-56)(4-57)(4-58)(4-59)(4-60)(4-61)(4-62) (4-63)(4-64) こうした言葉でアンナは、姉の激しい恋心を煽（あお）りたてた。それは、姉の迷う気持に希望を与え、恥じらいの慎（つつし）みを解いた。初めにふたりは神殿へ赴（おもむ）いた。そして神々の祭壇を巡って平安を請い、法（のり）を与えたまう五穀豊穣（ごこくほうじょう）神（ケレス）、ポエブス（アポロ）、父なるリュアエウス（バックス）、とりわけ縁結（えんむす）びの女神のユノに、作法に従って、それぞれ選（え）り抜きの二歳の羊を捧げた。 ディドは自ら右手に御杯（おさかずき）を捧げもった。その姿はまことに美しかった。彼女は白く輝く牝牛（めうし）の角（つの）のあいだにお神酒（みき）を注ぎ、そして豊かな奉納物に飾られた祭壇の神々の御前（みまえ）へと歩（ほ）を進めた。こうして日がな一日（いちにち）、奉納の儀式がくりかえされた。犠牲獣（ぎせいじゅう）の胸が裂かれ、まだ生温（なまあたた）かい内臓が吉凶（きっきょう）の占いに使われた。(4-54-64) (4-65)(4-66)(4-67)(4-68)(4-69)(4-70)(4-71)(4-72)(4-73) ああ、でも占いなどで何がわかろう。祈願（きがん）などで狂える心は救えぬ。神社など助けにはならぬ。小さな熾火（おきび）が彼女の髄（ずい）をついばんでいった。胸の奥の傷は癒（いや）されずに残ったのだ。不幸なディドは燃えていた。町をさまよっている時も狂っていた。彼女は、まるでクレタ島の森の中で、矢に射抜かれた雌鹿（めじか）だった。その鹿は無用心（ぶようじん）でいたため、遠くから羊飼いが矢を当ててしまったのだ。射た本人は矢が雌鹿に刺さったのを知らない。鹿は森の中を逃げ、ディクテの山道を駆け抜けるが、死をもたらす矢は脇腹（わきばら）に刺さったまま離れない。(4-65-73) (4-74)(4-75)(4-76)(4-77)(4-78)(4-79) 彼女はアエネアスを町中（まちなか）へと案内して回った。彼にシドニア（カルタゴ）の財力を見せ、町の威容（いよう）を示した。しかし彼女が何かを話し始めても、その言葉は、どうしても途中でふっつりと切れてしまった。日が傾くと彼女はまたしても宴を用意させ、もう一度、あのイリアキ（トロヤ）の苦しみを語ってほしいと、うつろな目をして彼にせがんだ。そしてアエネアスがそうすると、彼女はその口元（くちもと）を食い入るように見つめていた。(4-74-79) (4-80)(4-81)(4-82)(4-83)(4-84)(4-85)(4-86)(4-87)(4-88)(4-89) しかしやがて宴（うたげ）が終って人々は去り、月もいつか光を失い、沈みゆく星々が皆の眠りを誘う頃、人気（ひとけ）のなくなった部屋で、彼女はひとり悩んだ。あの人が立ち去ったクロスに身を横たえ、夢見ながら、目の前にいない人の声に耳をかたむけ、その人の顔を見つめた。またある時は、父親に生き写しのアスカニウスを膝（ひざ）に乗せ、強く抱きしめた。このようにして、打ち明けられぬ恋心（こいごころ）を紛（まぎ）らわそうとでもするように。 こうして、着手されていた高塔の建設は作業を中断された。武術にはげむ若者たちも、一旦（いったん）稽古（けいこ）の手を休めた。港でも保塁でも労働が止まった。至るところで仕事は進まなくなり、城壁の巨大な尖壁（ミナエ）はむなしくそびえ、天に達するクレーンも動きを止めた。(4-80-89)

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2015/10/26 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会