（２３）量刑について一言

23-1諸君、もうこれでよかろう。23-2私が弁明としていい得るところは、ほぼこれ位（くらい）のものである、23-3また外（ほか）にあるとしても恐らくこれに類した事である。 23-4もっとも諸君の中には、自分は遥かに軽き訴訟事件に際しても、23-5しきりに涙を流して法官に嘆願哀求し、23-6また出来得るかぎり同情を惹（ひ）くために子供や他の親族や友人等を多く法廷に連れ出したのに、23-7私はこれに反して現に、多分最大の危険に瀕（ひん）していると思われるにも拘（かかわ）らず、23-8ちっともそんなことをしようとはしないということに想到して、23-9私に不快を抱く人があるかも知れない。 23-10一部の人は恐らく、こんな事を念頭に置く結果、23-11自尊心傷つけられたと感じ、23-12これがために憤（いきどお）って憤りの裡（うち）に投票するであろう。23-13さて、もし諸君の中にそういう気持の人があるならば－－－23-14もっとも私はそう前提するう者ではないけれども、かりにそれが事実であるとするならば－－－23-15私は正当の理由をもって、彼にこういうことが出来るだろうと思う。23-16善き友よ、私にも数人の家族はある、23-17何となれば、ホメロスの言葉にもある通り、23-18我は檞（かい、かしわ（柏））よりにもあらず岩よりにもあらず、人より生れたる者であるからである。 著者の注釈：オデッセイヤ第十九篇、１６２，３行 23-19されば私にも家族もあれば息子もある、23-20アテナイ人諸君、息子（むすこ）は三人で、一人（ひとり）はすでに青年になっており、他の二人はまだ子供であるのである。23-21それにもかかわらず、私は無罪放免の投票を諸君に哀願するために、23-22彼らの誰一人をも、ここに連れ出そうとは思わない。23-23しからばなぜ私はそのようなことをしようとしないのか。 23-24アテナイ人諸君、それは高慢からでもなければ、諸君を蔑視（べっし）するからでもない。23-25私が自若（じじゃく）として死に対するか対しないか、それは別問題であるが、23-26とにかく私は、私にとっても諸君にとても、また国家全体にとっても、私がそんなことをするのは不名誉なことと思うのである－－－23-27まして私はこの年になっており、しかも、それが当然であるにせよ、ないにせよ、23-28とにかくこういう名声を博している、23-29すなわちソクラテスが何かの点において衆人に優れていることは少なくともすでに定評になってしまっているのだから。 23-30されば、諸君のうち、智恵か勇気かもしくはその他いずれかの徳において卓越せりという世評ある人が、23-31もしかくの如く振舞ったとするならば、それは恥辱というべきであろう。23-32実際私は、相当の名声ある人達が、法廷に立つと奇怪な真似をするのを幾度か見た－－－23-33死ぬことになると恐ろしい苦悩にでも逢うものと想像しているかのように、23-34諸君によって死刑に処せられなければあたかも不死ででもあるかのように。 23-35思うに、これらの輩（やから）は国家に不名誉をもたらす者である。23-36けだし一部の外来者もまた、アテナイ人中その徳（とく）抜群（ばつぐん）にして市民が自ら選任して官職やその他の名誉を与えた者も寸毫も婦女子と選ぶところがない、23-37と信ずるに至るおそれがあるのである。 23-38さればアテナイ人諸君、我らは、いやしくも多少世に名声を博している者である以上、そんなことをすべきではないし、23-39また諸君も、我らがもしそんなことをしたならば、これを容赦すべきではない。23-40むしろ諸君はそんな憐れっぽい芝居を演じて国家を物笑いの種とする者をば、23-41自若（じじゃく：物事にあわてず、驚かず、落ちついているさま）たる態度を持する者よりもはるか以上に処罰することを証示すべきである。

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2014/10/19 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会