（４）エドモン・ダンテス

0-4-1こうした周到（しゅうとう））な勉強の結果、１８２５年、ルソー、ルーベンの二人と、三者（さんしゃ）合作（がっさく）の形式で書きあげたボードビル（仏：ｖａｕｄｅｖｉｌｌｅ：歌や舞踊入りの喜劇、また軽妙な通俗喜劇）が『猟（りょう）と愛』だった。0-4-2そして、これが幸運にもアンビギュ・コミック座に上演されたのに気をよくして、越えて１８２６年には、ポルト・サン・マルタン座で上演されることになった、『婚礼と埋葬』を書きあげた。0-4-3これもまた、ラサンニュとの合作によったものだが、こうしてデュマは、着々劇壇への乗り出しに成功したのだった。

0-4-4こうしたあいだに、彼がフランス劇壇を席捲（せっかん）する最初の烽火（のろし）となった第一作『アンリー三世とその宮廷』五幕が用意された。0-4-5西暦１８２９年２月１１日、この作品が、あこがれの檜舞台（ひのきぶたい）であるテアトル・フランセ座に上演（じょうえん）されるや、まさに破れんばかりの喝采（かっさい）を博した。0-4-6つづいて１８３０年には、『クリスティーヌ』がオデオン座で脚光（きゃっこう）を浴び、これは『アンリー三世』にくらべてさらに優るとも劣らぬ成功をおさめ、デュマの劇作家としての地位はここに確立し、その名声は、一躍ビクトル・ユゴーのそれと竝（なら）び称されることになったのだった。

0-4-7七月革命（１８３０年）勃発（ぼっぱつ）の当時、デュマはすでにオルレアン候のもとを辞して、もっぱら文筆生活にはいっていた。0-4-8そして、天駆ける豊かな空想力にまかせた驚くほど多産な劇作のかずかずは、矢つぎ早にいパリの大劇場に上演された。0-4-9『アントニー』、『ナポレオン・ボナパルト』、『ネールの塔』、『キーン』、それらはまさに、当時の劇壇を風靡（ふうび）しつくす観があった。0-4-10デュマは、こうした驚くべき精力を、単に劇界だけに傾注するに満足しなかった。

0-4-11かつて１８２６年に『現代小説』一巻をあらわして以来、しばらくその方面への筆を思いあきらめていた彼は、たまたま１８３２年、スイスへの旅行中、『亡命貴族（エミグレ）の息子』の上演がポルト・サン・マルタン座で失敗したことを聞くと、ふたたび小説へ復帰することを思いたった。0-4-12しかもフランス革命、ナポレオンの覇業（はぎょう）に引きつづき、フランスに澎湃（ほうはい：ものごとが盛んに起こるようす）として湧きおこっていた歴史的好尚（こうしょう：このみ）のことを考え、しかも、歴史的小説なるものが、ともすれば考証（こうしょう）の正確に恋々（れんれん）たるあまり読者の倦怠（けんたい）をさそうにとどまっていることを考え、何よりも先ず情熱と行動の上に立った、ひろく民衆のための歴史小説をと思いたった。0-4-13ここにデュマのなみなみならぬ着眼（ちゃくがん）があったと言えるだろう。

0-4-14満（まん）を持（じ）したデュマが１８４４年（４２歳）、歴史小説の第一声（だいいっせい）として放った『三銃士（三んじゅうし）』は、まさに空前（くうぜん）の熱狂をもって迎えられた。0-4-15そしてそれに引きつづく『二十年後』、『モンテ・クリスト伯』、『ブラジュロンヌ子爵』等、数百篇を数える彼の小説作品は、文字通り民衆の心をつかんで、ここにフランス文学としての大デュマ山脈をきずきあげたというわけだった。0-4-16人力（じんりき）以上を思わせるこうした大仕事の裏には、彼自身の言葉を借りて言えば「ナポレオンにおける将軍たち」に比すべき多くのすぐれた協力者があった。

0-4-17とりわけ、１８３９年にはじまるデュマとマケの結びつきは、まさに大デュマ作品出現の契機（けいき）をなしたものと言えるだろう。0-4-18ただ、この『モンテ・クリスト伯』の一作（いっさく）にかぎり、デュマは、着想（ちゃくそう）から執筆（しっぴつ）にいたるまで、すべて独力によって為（な）したと言われている。0-4-19すなわち主人公エドモン・ダンテスに寄せるデュマの愛着は、彼をして、まさにこの作品をして一代（いちだい）の傑作（けっさく）をつくりあげる意気をもって筆をとらせたものと言えるだろう。
 
 
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引用者：2016/10/9　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書