５１（６）青年がレジオンドヌール勲章への反応

4-51-6-1「考（かんが）えてごらんなさい、なるほど僕（ぼく）は、貴族（きぞく）本位（ほんい）の見方（みかた）からすれば、あなたに似合（にあ）いのりっぱな相手（あいて）ではないかもしれません。4-51-6-2でも僕は、いろいろな点（てん）で、あなた方（がた）の社会（しゃかい）とも交渉（こうしょう）があるというわけです。4-51-6-3フランスのなかに、二つのフランスがあったというのはいまは昔（むかし）のことです。4-51-6-4王政時代（おうせいじだい）の格式（かくしき）の高（たか）い家柄（いえがら）も、いまは帝政時代（ていせいじだい）の家族（かぞく）のなかに溶（と）けこみました。4-51-6-5槍（やり）でかち得（え）た貴族の家（いえ）と、大砲（たいほう）でかち得た貴族の家と、一（ひと）つに溶（と）けあったというわけなんです。 4-51-6-6僕のほうは、つまり大砲でなった貴族の家柄、軍隊方面（ぐんたいほうめん）ではまずこれから見こみもじゅうぶん、それに、たかが知（し）れてはいるにしても、それだけ自分（じぶん）で自由（じゆう）にできる財産（ざいさん）もあります。4-51-6-7それに父（ちち）は、僕たちの故郷（こきょう）で、これまで類（るい）のなかった正直（しょうじき）な実業家（じつぎょうか）の一人（ひとり）として、いまでも尊敬（そんけい）されているというわけなんです。 4-51-6-8バランティーヌさん、『僕たち』の故郷と言いましたが、じつはあなたも、やはりマルセイユの方（かた）だといっていいと思ったからのことなんです」。 4-51-6-9「マルセイユのお話（はなし）はやめてくださいましな。4-51-6-10もうそれだけで、みなさんが惜（お）しんでくだすった、あの天使（てんし）のようなお母（かあ）さまのことが思（おも）い出（だ）されてくるんですもの。4-51-6-11この世（よ）に生（い）きておいでだった短（みじか）いあいだ、いろいろ気（き）をつけてくだすったうえ、永遠（えいえん）に天（てん）にお昇（のぼ）りになったあとでも、きっとわたしを守（まも）っていてくださるに違（ちが）いないあのお母さま、あのお母さまさえ生（い）きていてくだすったら、なにも怖（こわ）いことなんかないんですのに。 4-51-6-12わたしはきっと、あなたを好（す）きだとお母さまに申（もう）しあげただろうと思いますわ。4-51-6-13そしてお母さまは、たしかに二人（ふたり）をかばってくだすったろうと思いますわ」。 4-51-6-14「ああ、バランティーヌさん、」と、マクシミリヤンが言った。4-51-6-15でも、もしお母さまが生きておいでだとしたら、僕はあなたにお目にかかれなかったじゃありませんか。4-51-6-16だって、あなたは、御自分（ごじぶん）でも言（い）っておいでのように、お母さまが生きておいでだったら、たしかに幸福（こうふく）でおいでになれたでしょうから。4-51-6-17そして、幸福なあなたは、おそらくその羽振（はぶ）りのよさから、僕を大（おお）ふうに見（み）おろしておいでになれたでしょうから」。 4-51-6-18「あら！」と、バランティーヌが声（こえ）をたてた。4-51-6-19「今度（こんど）はあなたが意地悪（いじわる）をおっしゃいますのね・・・・4-51-6-20あの、ちょっとお聞（き）きしたいことがあるんですけど・・・・」。 4-51-6-21「お聞きになりたい？」と、マクシミリヤンは、バランティーヌのためらっているのを見ながら言った。 4-51-6-22「あの、」と、少女（しょうじょ）はつづけた、「昔（むかし）、マルセイユで、お宅（たく）のお父（とう）さまとうちの父（ちち）とのあいだに、なにか行（い）きちがいの種（たね）になるようなことがあったんですって？」。 4-51-6-23「知りません」と、マクシミリヤンが答えた。4-51-6-24「ただお宅のお父さまが、とても熱心（ねっしん）な王党派（おうとうは）でおいでだったのに反（はん）し、僕の父が、ボナパルト方（がた）だったというくらいなところでしょう。4-51-6-25もし、二人のあいだに何かうまくいかないことがあったにしても、まずその辺（へん）のところと思いますが。4-51-6-26どうしてそんなことをおたずねです？」。 レジオンドヌール勲章 4-51-6-27「こうなんですの」と、少女はつづけた。4-51-6-28「御存じのほうがいいと思って、すっかりお話し申しますわ。4-51-6-29ちょうどあなたが、レジオン・ドヌール勲章（くんしょう）をおもらいになったことが新聞に出たとき、わたしたちは、お祖父（じい）さまのお部屋（へや）にいたのでした。4-51-6-30そして、ほかにはダングラールさん、御存じですわね、銀行（ぎんこう）をやっておいでの方（かた）、昨日（きのう）その方（かた）のお馬（うま）で、継母（はは）と弟（おとうと）とが危（あぶ）なく命（いのち）をおとすところでした。 4-51-6-31で、みんながダングラールのお嬢（じょう）さんの御婚礼（ごこんれい）の話（はなし）をしていたとき、わたしは、お祖父さまに新聞（しんぶん）を読（よ）んでおあげしていました。4-51-6-32そして、ちょうどあなたのことの書（か）いてあるところにかかっていました。4-51-6-33じつはわたし、もうそれを読んでしまっていました。4-51-6-34というのは、前（まえ）の日（ひ）の朝（あさ）、その吉報（きっぽう）を教（おし）えていただいていたんですもの。4-51-6-35そして、そこのところにさしかかったとき、わたし嬉（うれ）しくてたまらなくなっていました・・・・。4-51-6-36でも、あなたのお名前（なまえ）を高（たか）い声（こえ）で読（よ）むのかと思（おも）うと、すっかりふるえていたのでした。4-51-6-37飛（と）ばして読（よ）んで怪（あや）しまれなければ、おそらく抜（ぬ）かしたことでしょう。4-51-6-38で、わたし、勇気（ゆうき）を出（だ）して読（よ）んだんですの」。 4-51-6-39「バランティーヌさん！」。 4-51-6-40「ところが、あなたのお名前を読みあげると同時（どうじ）に、父はこっちをふり向（む）きました。4-51-6-41わたしには、はっきりわかっていたのでした、4-51-6-42みんながきっと雷（かみなり）に打（う）たれたように、そのお名前にふるえあがるに違（ちが）いないって。4-51-6-43（わたし、ほんとにばかですわね！）。4-51-6-44すると、まさに父は飛（と）びあがりました。4-51-6-44そして（これは確かにわたしの思いちがいだったと思いますけど）、あのダングラールさんまでが飛びあがりましたの。

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ページ制作者者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
この本は、ささくら修道会の必読書
2017/9/23