５１（７）ビルフォールの回想とダングラール

4-51-7-1『モレル、』と、父（ちち）は申（もう）しました。4-51-7-2『まてよ！』。4-51-7-3（こう言った父は、眉根（まゆね）に皺（しわ）をよせました）。4-51-7-4『あのマルセイユのモレル一家（いっか）のやつではないかな。4-51-7-5あの一族（いちぞく）は、気（き）ちがいじみたボナパルト党（とう）で、１８１５年にはずいぶん手（て）こずらしたものだったが』。4-51-7-6『そう、』と、ダングラールさんが答（こた）えました。4-51-7-7『昔（むかし）船主（ふなぬし）だった男（おとこ）の息子（むすこ）でしょう』」。

4-51-7-8「ほんとうですか！」と、マクシミリヤンが言（い）った。4-51-7-9「そして、お父（とう）さまはどういう御返事（ごへんじ）をなさいました？」。

4-51-7-10「おお、恐（おそ）ろしいこと。4-51-7-11ちょっと申しあげられないような」。

4-51-7-12「かまわず聞（き）かせてくださいませんか」と、微笑（びしょう）を浮（う）かべながらマクシミリヤンが言った。

4-51-7-13「『やつらのいう皇帝（こうてい：読者註：セント・ヘレナ島で没したナポレオン・ボナパルトのこと）ときたら、』と、父は眉毛（まゆげ）をよせながら言ったのでした。4-51-7-14『皇帝は、ああいう気ちがいどもを、ちょうど適当（てきとう）な場所（ばしょ）に据（す）えることを心得（こころえ）ていたのさ。4-51-7-15皇帝は、やつらのことを大砲（たいほう）の餌（えさ）って呼（よ）んでいた。4-51-7-16なるほど奴（やつ）らにしっくりはまった名（な）といえば、それよりほかになかったからな。4-51-7-17そして、今度（こんど）の政府（せいふ）にしても、このけっこうな方針（ほうしん）を大（おお）いに活用（かつよう）していることは嬉（うれ）しい。4-51-7-18アルジェリヤ占領（せんりょう）にしても、その意味（いみ）だったら、政府（せいふ）上出来（じょうでき）といったところさ。4-51-7-19もっとも、だいぶ高（たか）い犠牲（ぎせい）にはついているがね』」。

4-51-7-20「だいぶ乱暴（らんぼう）な政策（せいさく）ですな」と、マクシミリヤンは言った。4-51-7-21「でも、そうしたお父さまのお言葉のために顔（かお）を赧（あか）らめたりなさることもありますまい。4-51-7-22僕（ぼく）の親父（おやじ）も、その点（てん）お父さまに負（ま）けていたとも言（い）えませんから。4-51-7-23いつも、こんなことを言っていました。4-51-7-24『皇帝陛下（こうていへいか）も、いろいろうまいことをお思（おも）いつきだが、それにしても、どうして裁判官（さいばんかん）や弁護士（べんごし）どもに一連隊（いちれんたい）をつくらせ、そいつらをいつも先頭（せんとう）に立（た）たせておやりにならないのかな？』って。

4-51-7-25言いまわしのみごとさ、考（かんが）え方（かた）のいい気（き）なところ、いずれ勝（まさ）り劣（おと）りがありませんよ。4-51-7-26で、お父さまのお言葉にたいして、ダングラールさんはどう言いました？」。

4-51-7-27「おお、あの方（かた）、あのかた独得（どくとく）の、陰険（いんけん）な、わたしのとてもきらいな笑（わら）い方（かた）をなさいました。4-51-7-28それからすぐに、二人（ふたり）は立（た）ちあがって出（で）ていきました。4-51-7-29わたしはそのとき、お祖父さまがたいへんびっくりしていらっしゃるのに気（き）がつきました。4-51-7-30ねえマクシミリヤンさん、あのおかわいそうな中風（ちゅうぶう：病気の種類）のお祖父さまのお気持（きもち）は、わたし以外（いがい）の人（ひと）にはわかりませんの。4-51-7-31わたしには、お祖父さまが、自分の前（まえ）でなされた話（はなし）をお聞（き）きになって、どれほど気持をお動（うご）かしだったか。（みんなはお祖父さまのことなんか頭（あたま）に置（お）かずにいるんですもの！）。『うすうす』気取（けど）っていたんでした。4-51-7-32なにしろ、お祖父さまの皇帝陛下のことを悪（わる）く言ったりするんですもの。4-51-7-33そして、お祖父さまは、とても皇帝びいきらしいんですもの」。

4-51-7-34「じっさい、」と、マクシミリヤンは言った。4-51-7-35「帝政時代（ていせいじだい）にはずいぶん鳴（な）らしたお名前（なまえ）でした。4-51-7-36お祖父さまは、元老院（げんろういん）議員（ぎいん）をしておいででした。4-51-7-37そして御存（ごぞ）じかどうかは知（し）りませんが、王政復古（おうせいふっこ：ナポレオンがエルバ島に流されていた時期）のころにおこなわれたボナパルト方（がた）の陰謀（いんぼう：ナポレオンのエルバ島脱出）には、全部（ぜんぶ）関係（かんけい）しておいででした」。

4-51-7-38「わたしも、そんな噂（うわさ）をちょいちょい耳（みみ）にして、変（へん）なことがあるものだと思（おも）っていますわ。4-51-7-39お祖父（じい）さまがボナパルト方（がた）で、お父（とう）さまが王党（おうとう）だなんて。4-51-7-40と言ったところで、いまさらいたし方（かた）もありませんわね・・・・。4-51-7-41わたし、お祖父さまのおそばへ行（い）きました。4-51-7-42すると、お祖父さまは、新聞（しんぶん）のほうを目（め）くばせしてお見（み）せでした。
 
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ページ制作者者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
この本は、ささくら修道会の必読書
2017/9/23