４７（４）伯爵の次の手・アリの出番(でばん)

伯爵から男爵夫人へのプレゼント 3-47-4-1それから二時間（にじかん）の後（のち）、ダングラール夫人（ふじん）は、モンテ・クリスト伯（はく）からのやさしい手紙（てがみ）を受（う）け取（と）った。3-47-4-2手紙の中には、こうしてパリの社交界（しゃこうかい）へ乗（の）り出（だ）そうとしている折（おり）も折、美（うつく）しい一人（ひとり）の御婦人（ごふじん）の悲嘆（ひたん）を見（み）るに忍（しの）びない、どうぞあの馬（うま）をお納（おさ）めくださるようにと書（か）かれていた。3-47-4-3馬には、夫人が朝見（あさみ）たときと同（おな）じ馬具（ばぐ）が附（つ）けられていた。3-47-4-4ただ伯爵（はくしゃく）は、耳（みみ）の上（うえ）に附けられた花（はな）結（むす）びの真中（まんなか）に、一つ一つ、ダイヤモンドを縫（ぬ）いつけさせておいた。 3-47-4-5ダングラールのところへも手紙がとどいた。3-47-4-6伯爵は、彼に、夫人のため、百万長者（ひゃくまんちょうじゃ）らしい気まぐれをすることのゆるしを求めていた。3-47-4-7そして、馬を贈（おく）るにあたって、東洋（とうよう）ふう（＝トルコ）のしきたりにしたがったことのゆるしを求めていた。 3-47-4-8その夕（ゆう）、モンテ・クリスト伯はアリをつれて、オートィユへ出かけた。 オートイユの別邸にて 3-47-4-9さて、翌日（よくじつ）の三時頃（さんじごろ）、アリは、ベルの音（おと）に呼（よ）ばれて伯爵の居間（いま）へはいっていった。 3-47-4-10「アリ、」と、伯爵は言った。3-47-4-11「お前（まえ）はたびたび、投げ縄（なげなわ）を使うのが巧（うま）いと言っていたな？」。3-47-4-12アリは、そうだという身振（みぶ）りをして、自慢（じまん）らしく身（み）をそらせた。3-47-4-13「よし！・・・・では投げ縄で牛（うし）がとめられるかな？」。3-47-4-14ありはうなずいて見せた。3-47-4-15「虎（とら）はどうだ？」。3-47-4-16アリは、おなじようなようすをして見せた。3-47-4-17「獅子（しし）は？」。3-47-4-18アリは、投げ縄を投げる身振りをして、それから、咽喉（のど）を締（し）められて咆（ほ）え立てる真似（まね）をしてみせた。3-47-4-19「よし！わかった」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-47-4-20「お前は獅子狩（ししがり）をしたことがあるかな？」。3-47-4-21アリは、得意（とくい）そうにうなずいた。3-47-4-22「だが、二頭（にとう）の馬が狂（くる）い出して駆（か）けて行くのをとめられるかな？」。3-47-4-23アリは、微笑（びしょう）してこれに答えた。 アリの使命(しめい) 3-47-4-24「では、こういうわけだ」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-47-4-25「もうじき、二頭の連銭葦毛（れんぜんあしげ）の馬が、気のちがったように馬車（ばしゃ）をひいて駆（か）けてくる。3-47-4-26わたしが、昨日（きのう）持（も）っていたのと同じ馬だ、たとい轢（ひ）き殺（ころ）されるようなことがあっても、その馬車を邸（やしき）の門（もん）の前（め）で止（と）めてもらいたい」。 3-47-4-27アリは、往来（おうらい）へ出て、門前（もんぜん）の舗道（ほどう）に一線（いっせん）を描いた。3-47-4-28そして、戻ってくると、自分のすることを『じっ』と見ていた伯爵にそれを示した。3-47-4-29伯爵は、アリの肩（かた）をやさしく叩（たた）いた。3-47-4-30これが、アリに礼（れい）をいうときのやり方（かた）だった。3-47-4-31それからアリは、邸と町（まち）との角（かど）にある車止（くるまど）めのとことへ行き、それに腰（こし）をかけて、長煙管（なが・きせる）を『すぱすぱ』すいだした。3-47-4-32モンテ・クリスト伯は、あとのことにはかまわず、自分（じぶん）の室（しつ）へ帰（かえ）って行（い）った。 3-47-4-33ところが五時（ごじ）ごろ、すなわち、そろそろ馬車の来るのを待ち出したころ、伯爵は、見た目にはそれとわからぬくらいな待（まち）ち遠（どお）しさをあらわしはじめてきた。3-47-4-34彼（かれ）は、町へ面（めん）した室（しつ）のなかを歩（ある）きまわりながら、或（あ）るときは耳（みみ）を澄（す）まし、或るときは窓（まど）のあたりに近（ちか）づいた。3-47-4-35アリはと、見れば規則（きそく）正（ただ）しく煙（けむり）を口（くち）から吐（は）いていた。3-47-4-36それによって、彼がいかにこの重（おも）い役目（やくめ）に心を傾（かたむ）けているかが見てとれたのだった。 暴走馬車(ぼうそうばしゃ) 3-47-4-37突然（とつぜん）、遠くのほうに車輪（しゃりん）の響（ひび）きが聞こえだした。3-47-4-38しかも、それは、雷（かみなり）のような速（はや）さで近づいていた。3-47-4-39一台の馬車があらわれた。3-47-4-40馬は、たけり狂（くる）い、もの凄（すご）い勢（いきお）いで走っていて、馭者（ぎょしゃ）はなんとしてもその足掻（あしか）きをとめることができなかった。3-47-4-41馬車のなかには、若（わか）い婦人（ふじん）と七八歳（しち・はっさい）の男（おとこ）の子（こ）がひしと抱（だ）き合い、恐怖（きょうふ）のあまり、声（こえ）さえたてられないでいた。3-47-4-42もし、車輪（しゃりん）の下（した）に石（いし）でもあるか、或いは樹（き）の枝（えだ）にでも引（ひ）っかかったが最後（さいご）、きしみを立てたその馬車は、ひとたまりもなく砕（くだ）けてしまうにちがいなかった。3-47-4-43車（くるま）は、石だたみの中央（ちゅうおう）を走（はし）っていた。3-47-4-44そして、町（まち）のなかには、それを見ている人々（ひとびと）の恐怖（きょうふ）の叫びが聞こえていた。

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ページ制作者：（ささくら修道会）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/9/7