４７（２） ４７（２）
| 3-47-2-1「奥さま、わたしは、」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-47-2-2「さいわいフランスの習慣（しゅうかん）をあやまりなく教（おし）えてくれるような人が見当（みあた）りましたら、パリでなされていることを、何ひとつのがさずにやって見たいと思っております」。3-47-2-3「馬はお好きでいらっしゃいます？」。3-47-2-4「わたしはしばらく東洋（とうよう：イスタンブールなどトルコ地方）におりました。3-47-2-5御承知（ごしょうち）のように、東洋人（トルコ人）は、この世で二つのものだけをたいせつに致しております。3-47-2-6すなわち、一つは駿馬（しゅんめ）、他（た）の一つは美人（びじん）でして」。 3-47-2-7「まあ！伯爵（はくしゃく）さま、」と、男爵夫人（だんしゃくふじん）は言った。3-47-2-8「女（おんな）を先（さき）になさるくらいの御親切（ごしんせつ）はお持ちくだすってもよろしかろうじゃございませんの？」。3-47-2-9「それでおわかりいただけたことと存じますが。3-47-2-10いましがた、フランスの習慣（しゅうかん）を手に執（と）って教えてくれるような教師（きょうし）が欲（ほ）しいと申しましたのも、じつはそうしたためなのでございまして」。3-47-2-11このとき、夫人のお気に入りの一人の侍女（じじょ）がはいってきて、夫人（ふじん）に何か二言（ふたこと）三言（みこと）ささやいた。3-47-2-12夫人は、さっと顔色（かおいろ）を変えた。 3-47-2-13「まさか！」と、彼女は言った。3-47-2-14「でも、ほんとうなのでございます。3-47-2-15奥（おく）さま」と、侍女は答えた。3-47-2-16ダングラール夫人（ふじん）は夫（おっと）のほうを振（ふ）り向（む）いて、「ほんとですの、あなた？」。3-47-2-17「何が？」と、ダングラールは、目に見えて狼狽（ろうばい）しながらたずねた。3-47-2-18「この娘（むすめ）の申しますことが・・・・」。3-47-2-19「いったいなんのことなんだね？」。3-47-2-20「馭者（ぎょしゃ）が馬を車につけようとすると、馬がすっかり厩舎（きゅうしゃ）にいなくなったっていうんですの。3-47-2-21いったいどうしたことでしょう？」。 3-47-2-22「まあ、聞いてくれ」。3-47-2-23「ええ、ええ、伺（うかが）いますわ。3-47-2-24どういうわけか、ぜひ承（うけたまわ）りたいと思いますわ。3-47-2-25わたくし、ここにおいでの方々（かたがた）に、お裁（さば）きをお願いしたいと思いますわ。3-47-2-26まず事（こと）の起こりをお話しいたしましょう。3-47-2-27お二方（ふたかた）、と、男爵夫人は言葉をつづけた。3-47-2-28「主人（しゅじん：＝夫）は、厩舎に馬を十頭（じゅっとう）持っておりまして、その十頭のうち、二頭がわたくしのももで。、それはみごとな、パリでいちばんりっぱな馬なのでございます。 3-47-2-29ドプレーさま、あなた御存じですわね、わたくしの連銭葦毛（れんぜん・あしげ：馬の毛色で、葦毛（あしげ：馬の毛色で、白い毛のなかに黒・茶などの毛のまじっているもの）に灰色の斑点のまじったもの）を！3-47-2-30ところが、どうでしょう！3-47-2-31明日（あす）、ビルフォールの奥（おく）さまがボワ（パリ郊外の大公園ボワ・ド・ブローニュ）へいらっしゃるということで、わたくし、馬車（ばしゃ）をお貸（か）しするお約束（やくそく）をして、いざそれをお貸ししようというときになって、二頭の馬が見えなくなったのでございます。3-47-2-32てっきり主人は、何千フランか儲（もう）けようとして、売（う）ってしまったにちがいございませんの。3-47-2-33ほんとに、なんという汚（きたな）らしい料簡（りょうけん：了見）の人でございましょう！3-47-2-34まったく、相場師（そうばし）根性（こんじょう）でございますわ！」。 |
 |
| 3-47-2-35「おいおい、」と、ダングラールはその言葉を受けて言った。3-47-2-36「じつは、あの馬は少し元気（げんき）過（す）ぎたんだよ。3-47-2-37やっと四歳（よんさい）だもの。3-47-2-38お前（まえ）があの馬に引かせるとき、わたしはとても心配（しんぱい）でたまらなかった」。 3-47-2-39「なんですって、」と、男爵夫人は言った。3-47-2-40「あなたはわたしが、一ヶ月（いっかげつ）前（まえ）にパリでいちばんの腕利（うできき）の馭者（ぎょしゃ）を雇（やと）ったことをちゃんと御存じではありませんの。3-47-2-41それを、馬といっしょに売（う）っておしまいになったのならともかく」。3-47-2-42「おなじような『やつ』を買ってあげるさ。3-47-2-43ありさえしたら、もっとりっぱな『やつ』を見つけてあげるよ。3-47-2-44だが、今度は、やさしい、おとなしい、前のように心配させないような『やつ』をね」。 3-47-2-45夫人は、このうえもない侮蔑（ぶべつ）をあらわしながら、首（くび）をすくめて見せた。3-47-2-46ダングラールは、たとい夫婦（ふうふ）のあいだにせよ少（すこ）しどうかと思われるこうした態度（たいど）に、気がつかないかのようだった。3-47-2-47そして、モンテ・クリスト伯のほうを振り向くと、「伯爵、もっとはやく御昵懇（ごじっこん）になれなかったのが今さら残念（ざんねん）に思われます。3-47-2-48お住居（じゅうきょ）のほうは、もうおととのいになりましたか？」。3-47-2-49「もちろん」と、伯爵は言った。 |
| 次へ |
 |
ページ制作者：（ささくら修道会）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/9/6