４６（７）無制限貸出が三つの威力

3-46-7-1「わたしの気持（きもち）をおわかりいただきますため、わたしの銀行（ぎんこう）でお受（う）け取（と）りになろうとお考（かんが）えの金高（きんだか）をお申（もう）し出（で）いただくことにいたしましょう」。3-46-7-2「しかし、」と、モンテ・クリスト伯（はく）は、この討論（とうろん）を一歩（いっぽ）も譲（ゆず）るまいといったようすだった。3-46-7-3「わたしが、お店（みせ）からの無制限貸出（むせいげんかしだし）を頼（たの）んだと申しますのも、それは、いくら入用（にゅうよう）なのか、その金額（きんがく）がわからなかったからのことなのでして」。3-46-7-4銀行家（ぎんこうか）は、いまこそ高飛車（たかびしゃ）に出（で）る機会（きかい：チャンス）が到来（とうらい）したように思った。 3-46-7-5彼（かれ）は、椅子（いす）に身（み）をそりかえらせ、重苦（おもくる）しい、傲岸（ごうがん：辞書：おごりたかぶってへりくだるところのないこと）な微笑（びしょう）を浮（う）かべながら、「どうぞ御心配（ごしんぱい）なくお申し出ください。3-46-7-6たといダングラール銀行（ぎんこう）の有金（ありがね）には限（かぎ）りがありましても、どれほど莫大（ばくだい）な御要求（ごようきゅう）にも応（おう）じられることを御納得（ごなっとく）いただけると思いますから。3-46-7-7百万フラン（ひゃくまんフラン：読者註：１０億円）とでもお切（き）り出（だ）しになりますか・・・・」。3-46-7-8「なんとおっしゃる？」と、モンテ・クリスト伯が言った。3-46-7-9「百万フランと申しあげましたが」と、ダングラールは、無智（むち）の言（い）わせる大胆（だいたん）さでくり返（かえ）した。 3-46-7-10「百万フランくらいなんになりましょう？」と、伯爵は言った。3-46-7-11「御冗談（ごじょうだん）はやめにしていただきます。3-46-7-12百万フランくらいですむことでしたら、ほんのそればかりの金（かね）のために、なんで貸出（かしだし）をお願（ねが）いしたりするものですか。3-46-7-13百万？3-46-7-14百万フランの金（かね）くらい、いつも紙入（かみいれ）か旅行用（りょこうよう）の小さい鞄（かばん）のなかに入（い）れております」、そう言いながら、モンテ・クリスト伯は、名刺（めいし）の入れてある手帳（てちょう）の中から、国立銀行（こくりつぎんこう）宛（あて）五十万フラン（５億円）の持参人（じさんにん）払（はらい）手形（てがた）二枚（にまい）を抜（ぬ）き出（だ）してみせた。 3-46-7-15ダングラールのような人間（にんげん）は、針（はり）で刺（さ）したくらいではききめがなく、殴（なぐ）り倒（たお）してやらなければならないような男（おとこ）だった。3-46-7-16ところで、この鉄槌（てっつい）の一撃（いちげき）はみごとにきいた。3-46-7-17ダングラールは思（おも）わずよろめき、目がくらんだ。3-46-7-18彼は、瞳（ひとみ）の大（おお）きく開（ひら）き切（き）ったその目（め）をあけて、呆然（ぼうぜん）とモンテ・クリスト伯の顔（かお）をながめた。 3-46-7-19「じつのところ、トムスン・アンド・フレンチ商会をお疑（うたが）いになっておいでですな」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-46-7-20「いや、それならそれでかまいません。3-46-7-21こういうこともあろうかと、取引（とりひき）にかけては門外漢（もんがいかん：部外者）のわたしですが、用心（ようじん）だけはしておきました。3-46-7-22ここに、あなたのところにまいったのと同じ手紙が二通（につう）あります。3-46-7-23一通（いっつう）は、ウィーンのアレスタイン・ウント・エスコレス商会からロスチャイルド男爵に宛（あ）てたもの。3-46-7-24他（た）の一通（いっつう）は、ロンドンのベアリング商会からラフィット氏に宛てたものです。 3-46-7-25御承諾（ごしょうだく）いただけるかどうか、一言（ひとこと）おっしゃっていただきましょう。3-46-7-26御心配（ごしんぱい）をかけないことにいたしますから。3-46-7-27この二つの店のうち、どちらかへ行きさえすればいいのですから」。3-46-7-28勝負（しょうぶ）はきまった。3-46-7-29ダングラールは、みごとにやられてしまっていた。3-46-7-30彼は、目に見えて手をふるわせながら、伯爵が指（ゆび）の先（さき）につまみだしながら見せた、ウィーンとロンドンからの手紙の封（ふう）を開（ひら、あ）け、細心（さいしん）な注意（ちゅうい）で署名（しょめい）の正否（せいひ）をたしかめた。3-46-7-31モンテ・クリスト伯にして、すでにダングラールが度（ど）を失（うしな）っていることに気がつかないでいたとしたら、おそらく、屈辱（くつじょく）されたとでも思ったろう。 3-46-7-32「大したものでございます。3-46-7-33この三つの署名は、じつに数百万フランの価値（かち）をもっております」と、ダングラールは、いま自分の前にいる、黄金（おうごん）の威力（いりょく）の権化（ごんげ）ともいうべき人（ひと）を拝（おが）もうとでもするかのように立（た）ち上（あ）がった。3-46-7-34「銀行に無制限貸出が三つまでも！いや、伯爵、失礼（しつれい）致（いた）しました。3-46-7-35決（けっ）してお疑（うたが）い申してはおりません。3-46-7-36ただ、あまりびっくりいたしましたので」。 3-46-7-37「いやいや！お店のようなところが、そんなにお驚（おどろ）きになることはありますまい」と、モンテ・クリスト伯は慇懃（いんぎん）に言った。3-46-7-38「では、少（すこ）しばかり金（かね）を届（とど）けていただけましょうな？」。3-46-7-39「伯爵、御希望（ごきぼう）の額（がく）をどうぞ。3-46-7-40お役（やく）にたたせていただきます」。

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ページ制作者：（ささくら修道会）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/26