４６（３）アリさんを見習い

3-46-3-1「そうそう、」と、伯爵（はくしゃく）は言葉（ことば）をつづけた。3-46-3-2「お前（まえ）に言（い）うのを忘（わす）れていたが、わたしは、毎年（まいねん）いくらかの金額（きんがく）を家（いえ）の者（もの）のために取（と）りのけて置（お）く。3-46-3-3暇（ひま）を出（だ）された者（もの）（＝くびになったもの）は、とうぜんその金（かね）をもらいそこない、その金は家（いえ）に残（のこ）っている者、わたしの死（し）んだあとでとうぜんもらう権利（けんり）のある者をよろこばせることになる。3-46-3-4お前も、家につとめてから一年（いちねん）になる。3-46-3-5もう幸運（こううん）ははじまっているのだ。3-46-3-6それを、長（なが）つづきさせるようにしたがよかろう」。 3-46-3-7フランス語（ご）が一言（ひとこと）もわからないため、平然（へいぜん）としていたアリの前でなされたこの説明（せつめい）は、フランス人（じん）の召使（めしつかい）を少（すこ）しでも研究（けんきゅう）したものならわかるような、てきめんの効果（こうか）をあらわした。 3-46-3-8「どんなことでも、御意（ぎょい）にかなうように努（つと）めさせていただきます」と、パティスタンが言（い）った。3-46-3-9「それに、アリさんを見習（みなら）うことに致（いた）しまして」。 3-46-3-10「いや、それはいかん」と、伯爵は大理石（だいりせき）のように冷（ひや）やかに言ってのけた。3-46-3-11「アリには、長所（ちょうしょ）もあるが欠点（けってん）も多（おお）い。3-46-3-12だから、あれを手本（てほん）にしてはいけない。3-46-3-13あれは例外（れいがい）だ。3-46-3-14あれには、給金（きゅうきん）をやっていない。3-46-3-15あれは、召使（めしつかい）ではない、奴隷（どれい）なのだ。3-46-3-16わたしの犬（いぬ）だ。3-46-3-17義務（ぎむ）を欠（か）いても放逐（ほうちく）はしない。3-46-3-18殺（ころ）してしまうまでなのだ」。 3-46-3-19パティスタンは目（め）をみはった。3-46-3-20「嘘（うそ）だと思（おも）うのか？」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-46-3-21そして、フランス語でパティスタンに言ったのと同じ文句（＝この場合、苦情ではなく、言葉そのもの）を、アリに向（む）かってくり返（かえ）した。3-46-3-22アリは、それを聴（き）いて微笑（びしょう）した。3-46-3-23そして、主人（しゅじん）に近（ちか）づいて片膝（かたひざ）つくと、その手（て）に恭（うやうや）しく接吻（せっぷん：くちづけ、キスのこと）した。3-46-3-24こうした一場（ひとば）の教訓（きょうくん）に、パティスタンはこの上（うえ）もなく驚（おどろ）かされた。3-46-3-25伯爵は、パティスタンには出（で）ていくように、そしてアリには、自分（じぶん）についてくるように合図（あいず）をした。 3-46-3-26伯爵とアリとは、彼（かれ）の居間（いま）にはいって行（い）って、なにか長（なが）いこと話（はな）していた。 3-46-3-27五時（ごじ）になると、伯爵は三度（さんど）ベルを鳴（な）らした。3-46-3-28一度（いちど）はアリ、二度（にど）はパティスタン、三度はベルツッチオということにきまっていた。3-46-3-29家令（かれい：この場合ベルツッチオ）がはいってきた。3-46-3-30「馬（うま）は？」と、モンテ・クリスト伯が言った。3-46-3-31「お馬車（ばしゃ）につけてございます、旦那（だんな）さま」と、ベルツッチオが答（こた）えた。3-46-3-32「お伴（とも）をいたしましょうか？」。3-46-3-33「いや、馭者（ぎょしゃ）とパティスタンとアリの三人（さんにん）でたくさんだ」。3-46-3-34伯爵が下（した）へおりると、今朝（けさ）ダングラールの馬車につけてあった馬が、ちゃんとその車（くるま）につけられていた。3-46-3-35馬のそばを通（とお）りながら、伯爵は一（ひと）わたり馬をながめた。 3-46-3-36「りっぱなものだ」と、彼は言った。3-46-3-37「買（か）ってくれてよかったな。3-46-3-38ただ、ちょっとおそすぎたきらいはあるが」。

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ページ制作者：（ささくら修道会）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/26