４４（４） ４４（４）
| 3-44-4-1「よく知っておりました。3-44-4-2それ以来（いらい）というもの、ぜったい独（ひと）り歩きせず、家にばかり引き籠（こも）っておりました。3-44-4-3そして、百方（ひゃっぽう：あらゆる方面）わたくしを捜索（そうさく）させたのでございます。3-44-4-4さいわいうまくかくれおおすことができて、見つからないでおりました。3-44-4-5すると、やつは、こわくなったのでございましょう。3-44-4-6これ以上ニームに長居（ながい）は危（あぶ）ないと思って、転任（てんにん）を願い出ました。3-44-4-7そして、なにしろ勢力（せいりょく）のあった男なので、たちまちベルサイユ勤務（きんむ）に変りました。 3-44-4-8ですが、御承知（ごしょうち）のように、いったん仇討（あだう）ちを誓（ちか）ったコルシカ人（じん）にとって、道（みち）の遠（とお）い近（ちか）いは問題（もんだい）ではございません。3-44-4-9やつの馬車（ばしゃ）がどんなに速く（本は疾く）走（はし）ったにしても、徒歩（とほ）で後（あと）をつけて、半日（はんにち）で追（お）っついてみせられます。3-44-4-10問題（もんだい）は、ただやつを殺（ころ）すということだけではございませんでした。3-44-4-11殺す機会（きかい）だったら幾（いく）らもありましたが、問題は、見つからないように、とりわけつかまらないように殺すことでございました。3-44-4-12わたくしには、自分の体（からだ）が、自分（じぶん）のものではございませんでした。3-44-4-13姉（あね）の世話（せわ）をし、養（やしな）ってやらなければなりませんでしたから。 3-44-4-14わたくしは、三ヶ月（さんかげつ）というもの、ビルフォールをつけ狙（ねら）っておりました。3-44-4-15その一挙一動（いっきょ・いちどう）、ちょっとした散歩（さんぽ）のときにも、その背後（はいご）にはいつもわたくしの眼（め）が光（ひか）っており、その行く先々（さきざき）へ、わたくしも出かけていきました。3-44-4-16とどのつまり、あの男が、こっそりオートイユへ来ることを突（つ）きとめました。3-44-4-17で、後（あと）をつけていきますと、いまわたくしどものいるこの家（いえ）にはいっていくではございませんか。3-44-4-18ただし、あたりまえの人のように、この家の往来（おうらい）へ向かった門（もん）からははいろうとせずに、馬（うま）か馬車（ばしゃ）でやってきては、近所（きんじょ）の旅籠（はたご）でそれを乗（の）りすて、あすこにある、あの門からはいっていたのでございます」。 3-44-4-19モンテ・クリスト伯は、ベルツッチオの言うその門を、闇（やみ）のなかにも見てとったようにうなずいてみせた。3-44-4-20「もうベルサイユにいる必要（ひつよう）もなくなりましたので、わたくしはオートイユにうつってようすをさぐりはじめました。3-44-4-21あいつをやっつけるには、とうぜんここに網（あみ）を張（は）らなければなりませんので。3-44-4-22この家は、さっき門番（もんばん）も申（もう）しあげましたように、ビルフォールの舅（しゅうと）のサン・メランの持物（もちもの）でございましたが、サン・メランはマルセイユに住んでおりましたので、この別荘（べっそう）がいらなくなったのでございます。3-44-4-23で、ちょっと前に、ある若い未亡人（みぼうじん）の女に家を貸（か）したとか聞きましたが、その女は、ただ男爵夫人（だんしゃくふじん）というばかりで、名前（なまえ）はわかっておりませんでした。 3-44-4-24なるほど、或（あ）る晩（ばん）、塀越（へい・ご）しにのぞいて見ますと、若（わか）いきれいな女がひとりで、よその家の窓（まど）からは見えない庭（にわ）のなかを歩いておりました。3-44-4-25女はしきりに小さい門のほうを気にしておりますので、これは『てっきり』ビルフォールを待（ま）っていっるのだなと見てとりました。3-44-4-26わたくしの近くまでやって来ましたとき、暗いながらも、その顔かたちがわかりましたが、金髪（きんぱつ）で、背（せ）の『すらり』と高い、十八九（じゅう・はっ・く）のきれいな女で。 3-44-4-27それに、かんたんな化粧着（けしょうぎ）のままで、体（からだ）かっこうもはっきり見えましたので、女が『みもち』で、産み月（うみづき）もかなり迫（せま）っていることまでわかりました。3-44-4-28しばらくすると、小さい門をあける者がございます。3-44-4-29一人（ひとり）の男がはいってまいりました。3-44-4-30すると、女は、大急（おおいそ）ぎで男のほうへ走っていき、二人は抱（だ）き合って熱（あつ）い接吻（せっぷん：キス）を取りかわし、いっしょに家へはいりました。 3-44-4-31それがビルフォールだったのでございます。3-44-4-32帰るときには、しかも夜（よる）のことでもあり、庭をひとりで突っ切（つっき）るにちがいないと考えました」。3-44-4-33「で、」と、伯爵はたずねた。3-44-4-34後になって女の名前がわかったのかね？」。3-44-4-35「いいえ、旦那（だんな）さま」と、ベルツッチオは答えた。3-44-4-36「名前をきくひまがあったかどうか、いまにおわかりいただけましょう」。 3-44-4-37「で？」。 3-44-4-38「その晩（ばん）、」と、ベルツッチオはふたたび話をつづけた。3-44-4-39「検事（けんじ）を殺そうと思えば、殺して殺せないことはなかったんでございます。3-44-4-40だが、わたくしには、まだ庭のようすが十分（じゅうぶん）わかっておりませんでしたし、一息（ひといき）に『やれず』に声でも立てられ、誰（だれ）か駆（か）けつけてでもきたとき、逃（に）げられなくては困（こま）ると思いました。3-44-4-41で、次の『あいびき』のときまで待つことにして、万事（ばんじ）見とどけてやろうと思い、塀（へい）のそとの町にある、小さい室（しつ）を借（か）りました。3-44-4-42三日（みっか）ばかりいたしますと、夜の七時（しちじ）頃（ごろ）、馬にのった下男（げなん）が邸（やしき）から出まして、セーブル街道（かいどう）へ向かって走っていきます。3-44-4-43てっきりベルサイユへいくんだなと思いましたが、まさにそのとおり、三時間ばかりしますと、埃（ほこり）だらけになって帰ってきました。3-44-4-44用件（ようけん）をすましてきたのでございましょう。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/18