４４（１３） ４４（１３）
| 3-44-13-1『司祭さんは、五万フランはまちがいないと言ってたんだが』と、カドルッスは、つぶやくように申しました。3-44-13-2『さあさ、こっちへよこしなさいよ！3-44-13-3なんとも手かずのかかる人だな！』。3-44-13-4宝石商は、亭主（ていしゅ）の手から、ダイヤを奪（うば）うように取りあげながら申しました。3-44-13-5『四万五千フランあげますからね。3-44-13-6年利（ねんり）二千五百リーブル（読者註：リ−ブル＝フランとして：２，５００Ｘ１，０００＝２５０万円）。3-44-13-7こっちにしたって、のどから手の出るほどの一財産（ひとざいさん）でさ。3-44-13-8それでも文句（もんく）があるとおっしゃる』。 3-44-13-9『ところで、その四万五千フランは、いったいどこにあるんですかい？』と、カドルッスは、しわがれた声で申しました。3-44-13-10『そうれ』と、宝石商は、テーブルの上に、金貨で一万五千フラン（読者註：２５フラン相当の１ルイ金貨なら６００個）、紙幣で三万フラン（読者註：１０フランのピアストル紙幣なら３，０００枚）並べました。3-44-13-11『ちょっとランプをつけますからね。3-44-13-12暗（くら）いことだし、まちがいがあるといけないから』。 3-44-13-13そう言ったカルコントの言葉（ことば）に気がついてみますと、掛け合いをしている間にすでにあたりは暗くなり、日（ひ）が暮（く）れるとともに、半時間（はんじかん：３０分）も前からその気配（けはい）を見せていた嵐（あらし）がとうとうやってきていたのでした。3-44-13-14遠（とお）くのほうには、低（ひく）い雷鳴（らいめい）が聞こえていました。3-44-13-15ですが、宝石商も、カドルッスも、カルコントも、まったく慾（よく）の一心（いっしん）で、まったく気がつかないようすでした。3-44-13-16わたくしまでが、金貨や紙幣の山を見せられ、へんに目がくらんでしまっていました。3-44-13-17まるで夢（ゆめ）でも見ているよう、しかも、夢の中でよくあるように、体（からだ）は縛（しば）られて、身動（みうご）きできずにいるといった気持（きもち）でした。 3-44-13-18カドルッスは、金貨と紙幣とを何度（なんど）も何度も勘定（かんじょう）して、それを女房に渡（わた）しました。3-44-13-19女房（にょうぼう）は女房で、それを何度となく勘定しました。3-44-13-20そのあいだ、宝石商は、ランプの火かげにダイヤモンドをかざしていました。3-44-13-21ダイヤからは、目を射（い）るような光（ひかり）が射（さ）すので、折々（おりおり）窓を照らし出す嵐（あらし）の前ぶれの稲妻（いなずま）のことさえ、忘（わす）れてしまっているようでした。 3-44-13-22『どうでしたな！3-44-13-23金（かね）はちゃんとありましたかね？』と、宝石商はたずねました。3-44-13-24『ありましたよ』と、カドルッスが答えました。3-44-13-25『カルコント、紙入（かみいれ）をくれ、それから財布（さいふ）を持ってきてくれ』。3-44-13-26カルコントは、箪笥（たんす）のところへ行って、古い革（かわ）の紙入と財布とを持ってきました。3-44-13-27彼は、紙入から脂（あぶら）じみた手紙（てがみ）を何通（なんつう）か取り出し、そのかわりに、いまの紙幣束（しへいたば）をおさめました。3-44-13-28財布のほうには、六リーブル貨（か）が二枚だか三枚だかはいっていました。3-44-13-29おそらくこれが、この貧（まず）しい一家（いっか）にとっての全財産（ぜんざいさん）とでもいうわけでした。 ---１，０００フラン札があったのなら紙幣は３０枚となる。紙幣の単位は簡単に印刷で済ませなれるが、金貨はどうだろう。 3-44-13-30『さて、』と、カドルッスは申（もう）しました。3-44-13-31『一万フランばかり損（そん）をしたっていうわけですが、いかがです、晩飯（ばんめし）をいっしょになさいませんかね？3-44-13-32お世辞（せじ）ぬきで申すんですがね』。3-44-13-33『いや』と、宝石商は答えました。3-44-13-34『時刻（じこく）もかなり遅いようだし、ボーケールへ帰らないと家内（かない：妻）が案じていましょうから』。3-44-13-35そして、時計を出してみながら、『これはたいへん！』と、叫びました。3-44-13-36『やがて九時です。3-44-13-37ボーケールには、十二時前には帰れますまい。3-44-13-38では、お二人（ふたり）さん、さようなら。3-44-13-39もしまた、ブゾーニ司祭さんのような人がでてきたときには、わたしのことを忘れずにね』。 3-44-13-40『でも、一週間したら、ボーケールをお立ちでしょう？3-44-13-41市（いち）は来週（らいしゅう）ですむことだし』と、カドルッスが申しました。3-44-13-42『いやなに、パリのほうへ手紙をくださいよ。3-44-13-43パレー・ロワイヤルのピエール通り四十五番地、ジョアネス宛で届きますから。3-44-13-44引きあいそうな仕事だったら、いつでも出かけてきますからね』。3-44-13-45このとき、ひとしきり雷鳴（らいめい）が轟（とどろ）きわたって、目を射るような稲妻（いなずま）の光に、ランプの光も消（け）されてしまうようでした。 |
| 次へ |
 |
ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/23