４４（１４） ４４（１４）
| 3-44-14-1『やれ、やれ？こんな空（そら）模様（もよう）にお出かけですかい？』。3-44-14-2こうカドルッスが申しますと、『なあに、雷（かみなり）なんか、ちっともこわくはありませんから』と、宝石商が答えました。3-44-14-3『でも、泥棒（どろぼう）は？』と、カルコントが口（くち）を挟（はさ）みました。3-44-14-4『市（いち）のたっているうちは、道（みち）がとかく物騒（ぶっそう）でしてね』。3-44-14-5『ふん、その用心（ようじん）にはこれがあります』と、ジョアネスは言って、ポケットから、『ぎっしり』弾丸（だんがん）をこめた短銃（たんじゅう）二挺（にちょう）をとり出しました。3-44-14-6『吠（ほ）えたかと思うと、たちまち噛（か）みつく犬（いぬ）なんでしてね。3-44-14-7買ったダイヤを狙（ねら）う最初の二人（ふたり）に、たちまちくらわせてやるというわけなんでさ』。 3-44-14-8カドルッスと女房（にょうぼう）とは、薄気味（うすきみ）悪（わる）い眼まぜをかわしました。3-44-14-9二人は同時（どうじ）に、なにか恐（おそ）ろしい考えを思いつきでもしたようでした。3-44-14-10『では、お気をおつけになって！』と、言ったカドルッスに、『ありがとう!』と、宝石商は答えながら、古い長持（ながもち）のところに立てかけてあった杖（つえ）を手にして出て行きました。3-44-14-11ところが、入口（いりぐち）の戸（と）を開けたとたん、一吹き（ひとふき）さっと吹きこむ風に、ランプは危（あや）うく消（き）えかけました。3-44-14-12『これはえらい空模様（そらもよう）になってきたぞ。3-44-14-13この中を、二里（にり：８Ｋｍ）も歩くというんだからな！』と、宝石商は申しました。 3-44-14-14それをうけて、カドルッスは、『おやめなさい。泊（とま）ってゆくことになさいましよ』と、すすめました。3-44-14-15『そうなさったら？お泊りになっていらっしゃいよ』と、カルコントもふるえ声ですすめました。3-44-14-16『なんとかおもてなしをしましょうから』。3-44-14-17『いやいや、やっぱりボーケールへ帰って寝（ね）ますよ。3-44-14-18では、さよなら』。3-44-14-19カドルッスは、ゆっくりした足取（あしど）りで、『しきい』のところまで出て見ました。3-44-14-20と、もう外に出た宝石商の声で、『空（そら）も地面（じめん）もわかりゃしない。3-44-14-21右か左か、どっちへ行ったらいいんですかい？』。3-44-14-22『右ですよ』と、カドルッスが申しました。3-44-14-23『まちがう心配はありませんから、道の両側（りょぅがわ）に、ずっと並木（なみき）が植（う）わっていますからね』。3-44-14-24『そうですか。わかりましたよ』。3-44-14-25もう、だいぶ遠くへ行ったとみえて、はっきりききとれないような返事（へんじ）でした。 3-44-14-26『戸（と）をお閉（し）めなさいよ』と、カルコントが申しました。3-44-14-27『あたしゃ雷が鳴るとき戸を開けとくのが大きらいさ』。3-44-14-28『しかも、家に、たんまり金があるときには、とでもくるんだろう？』と、カドルッスは、そう返事（へんじ）をしながら鍵（かぎ）をしっかりかけました。3-44-14-29室（しつ）にもどると、亭主は箪笥（たんす）のところへいき、財布（さいふ）と紙入（かみいれ）をとり出しました。3-44-14-30そして二人は、三度目の勘定（かんじょう）をはじめました。3-44-14-31薄暗（うすぐら）いランプの光に照らし出された貪欲（どんよく）そうな二人の顔、ああした表情（ひょうじょう）と申しましたら、まず、見たことがございません。3-44-14-32とりわけ、女房の顔のなんとも言えない厭（いや）らしさ。3-44-14-33いつもその体を震（ふる：本は慄）わせていた熱（ねつ）の痙攣（けいれん）もその晩（ばん）はとりわけ烈（はげ）しく、蒼（あお）い顔をいやがうえにも生白（なましろ）く見せて、凹（へこ）んだ眼（め）が、まるで燃（も）えてでもいるようでした。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/23