４４（１２） ４４（１２）
| 3-44-12-1「はい、わたくしとしては、カドルッスを腹黒（はらぐろ）の男とは思っておりませんでした。3-44-12-2罪（つみ）を犯（おか）すことはもちろん、盗（ぬす）みさえもできない男のように思っていました」。3-44-12-3「してみると、お前は、いままでしてきたことにくらべて、ずっと善良（ぜんりょう）な心の持主（もちぬし）というわけだな。3-44-12-4ところで、そのエドモン・ダンテスという人間（にんげん）を、お前は知っていたのかね？」。3-44-12-5「いいえ、旦那（だんな）さま。3-44-12-6そのとき聞いたのがはじめてでして、それから後、ニームの刑務所（けいむしょ）でブゾーニ司祭（しさい）さまにお目にかかったとき、司祭さまのお口（くち）から伺（うかが）ったのが最後（さいご）でした」。 3-44-12-7「よし！それからどうした？」。3-44-12-8「宝石商（ほうせきしょう）は、カドルッスの手から指輪（ゆびわ）を受け取り、ポケットから、『はがね』の小さいピンセットと銅（どう）の秤（はかり）を取り出しますと、宝石をつかんでいた金（きん）の爪（つめ）をひろげ、ダイヤモンドを穴（あな）からはずして叮嚀（ていねい）にい秤にかけてみておりました。3-44-12-9『四万五千まではずみましょうよ。3-44-12-10だが、それから先はだめですな。3-44-12-11このダイヤなら、まあそのへんのところがお値打（ねうち）で、それにわたしは、それくらいのお金（かね）だけしか持って来ていませんし』。 3-44-12-12それを聞いたカドルッスは、『なあに、そんなことはかまいませんや、ボーケールまでお伴（とも）をして、残りの五千フランを頂（いただ）くことにしますから』と、申しました。3-44-12-13宝石商は、指輪とダイヤモンドをカドルッスの手に返しました。3-44-12-14『いや、それ以上の値打（ねうち）はありませんな。3-44-12-15それに、はじめ見たときにはわからなかったが、石（いし：この場合ダイヤモンド）に『きず』が一つありましてね。3-44-12-16そのお値段をつけたのさえ、ちょっとどうかと思ってるんで。3-44-12-17だが、一旦（いったん）お約束（やくそく）をしたことだし、四万五千フランはひっこめますまい』。 3-44-12-18『あんた、ダイヤを、元どおり指輪にはめといてくだすってもいいでしょう？』。3-44-12-19カルコントは、『つっけんどん』にこう申しました。3-44-12-20宝石商は、『ごもっとも』と言いながら、宝石を爪のなかにはめこみました。3-44-12-21『けっこうでさ。3-44-12-22それならほかへ売るばかりでさ』と、カドルッスは、箱（はこ）をポケットにおさめながら申しました。3-44-12-23すると、宝石商は、『それもけっこうですがね、ほかの人だったら、わたしのように『おいそれ』と話には乗（の）りますまいよ。3-44-12-24お聞きしたような事実（じじつ）だけでは、合点（がってん）しないにきまってまさあ。3-44-12-25あんたのような方が、五万フランのダイヤモンドを持ってるなんて、まったく普通（ふつう）のことではありませんから、訴（うった）え出るにきまってまさあ。 3-44-12-26となると、ブゾーニ司祭という人を見つけ出さなければならなくなる。3-44-12-27ところで二千ルイ（読者註：５０，０００／２、０００＝２５で、1ルイは２５フランということになる。一般的には金貨の単位）ものダイヤを人にくれる司祭さまなんて、めったにいるはずがありませんしね。3-44-12-28お上（おかみ：この場合は警察）の手がはいろうものなら、お前さんたち刑務所（けいむしょ）送りになるでしょうな。3-44-12-29よしんば『むじつ』ときまり、暗いところで三四ヶ月（さん・よん・かげつ）暮（く）らした後（あと）で放免（ほうめん）されても、指環（ゆびわ）は、書記課（しょきか）あたりで見えなくなるかもしれやしない。3-44-12-30でなくても、あるいは五万五千もするダイヤのかわりに、三フランくらいの贋物（にせもの）をつかまされるかもしれやしない。3-44-12-31それに、こうした代物（しろもの）を買うというのは、こっちのほうでも危（あやう）い橋（はし）を渡（わた）るわけでね』。3-44-12-32カドルッスと女房とは、互（たが）いに眼と眼で相談（そうだん）しあっておりました。 3-44-12-33『よしましょうよ。3-44-12-34あっしたちは、五千フランも損（そん）のできる大金持（おおがねもち）じゃあないんだからね』 。3-44-12-35こうカドルッスが申しますと、宝石商は、『それはどうとも御随意（ごずいい）に。3-44-12-36でも、ごらんのとおり、わたしのほうでは正真正銘（しょうしんしょうめい）のお金を持って来ていますよ』。3-44-12-37こう言いながら、片方（かたほう）のポケットから、一握（ひとにぎ）りの金貨（きんか）を出して、目をみはっているカドルッスの前に『ちらつか』せ、また片方（かたほう）のポケットからは、紙幣（しへい）のたばを出して見せました。 3-44-12-38カドルッスの頭のなかでは、明（あき）らかに、はげしい争（あらそ）いが起（お）こっていました。3-44-12-39彼にとっては、手の中でひねくりまわしている小さいなめし革の宝石箱が、こうした目もくらむような莫大（ばくだい）な金（かね）と引き合うものとは、どうも思われなかったからなのでした。3-44-12-40彼は、女房のほうを振り返って、低い声でたずねました。3-44-12-41『どうするね？』。3-44-12-42『あげちまいなさいよ。3-44-12-43ダイヤを持たずにボーケールへ帰ると、きっとあたしたちのことを密告（みっこく）するにちがいないから。3-44-12-44それに、この人も言ってるとおり、ブゾーニ司祭が、うまく見つかるかどうかもわかりゃしないし』。 3-44-12-45『ようがす！』と、カドルッスは申しました。3-44-12-46『では、四万五千フランでおゆずりしましょう。3-44-12-47だが、女房は、金鎖（きんのくさり）がひとつ欲（ほ）しいと言うことだし、あっしも銀（ぎん）の耳輪（みみわ）が欲（ほ）しいんだが』。3-44-12-48宝石商は、ポケットから、言われたような品物（しなもの）の見本（みほん）のはいった、長く平べったい箱を取り出しました。3-44-12-49『さ、取引（とりひき）にかけてはさっぱりしているわたしでさあ。3-44-12-50どれでも好（よ）いのをお取りなさいよ』。3-44-12-51女房のほうは、五ルイ（読者註：５Ｘ２５Ｘ１，０００＝１２．５万円）くらいの金鎖を、亭主（ていしゅ）のほうは、１５（１．５万円）フランくらいの耳輪を選びました。3-44-12-52『これで文句（もんく）はありますまいね？』と、宝石商は申しました。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/23