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| 3-43-5-1「わたくしは、ただの一度（いちど）しか、口外（こうがい）したことがございません。3-43-5-2わたくしは、ブゾーニ司祭さまにお話ししたのでございます。3-43-5-3あんなことは、懺悔（ざんげ）として秘密（ひみつ）をまもっていただけるのでなければ、とても口外できません」。3-43-5-4ベルツッチオは、頭（あたま）を振（ふ）り振りこう言（い）った。3-43-5-5「では、ベルツッチオ、」と、伯爵（はくしゃく）が言った。3-43-5-6「お前は、懺悔をきいてくだすった方のところへ、返（かえ）されたいと思っているのか？3-43-5-7その方（かた）に頼（たの）んで、ブリューノ派の修道僧（しゅうどうそう）なり、サン・ベルナール派の修道士（しゅうどうし）なりにしていただきたいと思っているのだろう。 3-43-5-8そのうえで、自分（じぶん）の秘密（ひみつ）のことを話（はな）すもいい。3-43-5-9わたしとしては、そうした亡霊（ぼうれい）に悩（なや）まされているような人間（にんげん）を、自分（じぶん）の家（いえ）に置（お）きたくない。3-43-5-10自分の家の者（もの）が、夜（よる）、庭（にわ）のなかが歩（ある）けないようでは困（こま）るじゃないか。3-43-5-11それに正直（しょうじき）のところ、警察署長（けいさつしょちょう）あたりにやってこられるのも感心（かんしん）しないし。3-43-5-12なぜかわかるかな？ 3-43-5-13イタリーでは、警察（けいさつ）は金（かね）さえやれば黙（だま）っている。3-43-5-14だが、フランスでは、それとまったく反対（はんたい）だ。3-43-5-15金をやれば、かえってやかましく問題（もんだい）にする。3-43-5-16ふん！わたしは、お前（まえ）は、いくぶんコルシカ生（う）まれらしいところがあり、大（おお）いに密輸入者（みつゆにゅうしゃ）らしいところがあり、きわめて気（き）のきいた家令（かれい）とばかり思（おも）っていた。3-43-5-17だが、お前には、まだまだほかにできるところのたくさんあることがわかってきた。3-43-5-18それではお前に暇（ひま）をやろう」。 3-43-5-19「おお、旦那（だんな）さま、旦那さま！」、家令は、このおどし文句（もんく）をきいてふるえ上（あ）がった。3-43-5-20「申しあげさえすれば置（お）いてくださるということでしたら、すっかりお話（はな）し申（もう）しましょう。3-43-5-21あらいざらい申しあげてしまいましょう。3-43-5-22それでも出（で）て行（い）けとおっしゃいますなら、それは、刑場（けいじょう）へ引（ひ）かれていくときでございます」。3-43-5-23「そう出（で）てくれば話しは別（べつ）さ」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-43-5-24「だが、嘘（うそ）をつくつもりだったら、考（かんが）えたうえにしたほうがいいぞ。3-43-5-25むしろなにも言わないほうがましだから」。 3-43-5-26「いえ、旦那さま、誓（ちか）っていっさい申しあげます！3-43-5-27あのブゾーニ司祭さまにしましても、わたしの秘密（ひみつ）の一部（いちぶ）だけしか御存（ぞんじ）じないのでございます。3-43-5-28が、まず、お願（ねが）いでございます。3-43-5-29どうか、その篠懸（すずかけ）の木（きのそばをおどきくださいまし。3-43-5-30ごらんください、月（つき）が、ちょうど雲（くも）を白（しろ）く染（そ）めようとしております。3-43-5-31そういうふうにお立（た）ちになって、お体（からだ）を外套（がいとう）につつみ、その上（うえ）、その外套が、ビルフォールの外套に似（に）ていますと！・・・・」。 3-43-5-32「なに！」と、モンテ・クリスト伯は叫んだ。3-43-5-33「ビルフォールだと・・・・」。3-43-5-34「御存じでいらっしゃいますか？」。 3-43-5-35「ニームで検事（けんじ）をしていたことがあるな？」。 3-43-5-36「さようでございます」。 3-43-5-37「サン・メラン侯爵の娘御（むすめご）と結婚（けっこん）された？」。 3-43-5-38「さようでございます」。 3-43-5-39「法曹界（ほうそうかい：辞書：法曹とは、法律に関する仕事を専門とする人。裁判官、検察官、弁護士など）で廉直（れんちょく）剛毅（ごうき）な法官（ほうかん）という噂（うわさ）のあった人だろう？」。3-43-5-40「ところが旦那さま、」と、ベルツッチオは叫んだ。3-43-5-41「一点（いってん）非（ひ）の打（う）ちどころのないという評判（ひょうばん）のあの男が・・・・」。 3-43-5-42「ふむ」。 3-43-5-43「じつは人非人（にんぴにん：辞書：人の道にはずれたことをする人）なんでございますよ」。 3-43-5-44「じょうだんじゃない！」と、モンテ・クリスト伯は言った。 3-43-5-45「でも、まったく申しあげておりますとおりいで」。 3-43-5-46「ふん、ほんとうか！」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-43-5-47「で、その証拠（しょうこ）でもあるのか？」。3-43-5-48「あったと申しあげたほうがよろしゅうございましょう」。3-43-5-49「ところが、『へた』をして、それを見失（みうしな）ったとでもいうわけなのか？」。3-43-5-50「はい、でも、よくさがしましたら見つかりましょう」。3-43-5-51「そうか！」と、伯爵は言った。3-43-5-52「その話を聞かせてもらおう！ 3-43-5-53なんだかおもしろくなってきたから」。3-43-5-54こう言って伯爵は、ルチア（著者註：ドニゼッチのオペラ『ルチア・ディ・ランメルモール』の小曲（しょうきょく）を口（くち）ずさみながら、ベンチのところへいって腰（こし）をおろした。3-43-5-55ベルツッチオは、記憶（きおく）をよび起（お）こしながら、その後（あと）からついていった。3-43-5-56そしていま、彼は伯爵の前（まえ）に立（た）っていた。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/17