４３（４）家令(かれい)の紹介者(しょうかいしゃ)はブゾーニ司祭(しさい)

3-43-4-1モンテ・クリスト伯は、ローマで、アンドレアの死刑（しけい）をみていたときとおなじ眼差（まなざ）しで、じっと彼（かれ）を見（み）つめていた。3-43-4-2そして、哀（あわ）れな家令（かれい）の全身（ぜんしん）を、さらにふるえ上がらせるような声（こえ）で言（い）った。3-43-4-3「では、１８２９年（読者註：エドモン・ダンテスがシャトー・ディフを脱出した年）に、フランスの旅（たび）からお帰（かえ）りだったブゾーニ司祭（しさい＝エドモン）は、お前のいいところを褒（ほ）めた紹介状（しょうかいじょう）をつけてお前をわたしのところにおよこしだったが、してみると、司祭はわたしをお騙（だま：本は欺（あざむく）しになったというわけだな。3-43-4-4よし、わたしは司祭へ手紙（てがみ）を出そう。3-43-4-5そして、お前についての責任（せきにん）をもっていただく。 3-43-4-6そうすれば、その殺人事件（さつじんじけん）がどういうものか、きっとわかるにちがいない。3-43-4-7ただ、ベルツッチオ、前（まえ）もって断（ことわ）っておくが、わたしは、一つ（ひとつ）の国（くに）に生活（せいかつ）しているあいだは、その国の法律（ほうりつ）にしたがう習慣（しゅうかん）を持（も）っている。3-43-4-8そして、お前のことで、フランスの官憲（かんけん）と、事（こと）をかまえたりしたくないと思（おも）っている」。3-43-4-9「おお、旦那（だんな）さま、どうかそんなことはなさいませんで。3-43-4-10わたしは、忠実（ちゅうじつ）にお仕（つか）え申（もう）していたではございませんか？」。3-43-4-11ベルツッチオは、やるせなさそうに叫（さけ）んだ。3-43-4-12「わたくしは、これまで曲（まが）ったことはいたしませんでした、できるかぎりいいことをしてまいりました」。 3-43-4-13「それが嘘（うそ）とは言（い）わないさ」と、伯爵は言った。3-43-4-14「だが、お前はどうしてそれほど興奮（こうふん）している？3-43-4-15それこそ、正しくないことの証拠（しょうこ）なのだ。3-43-4-16心（こころ）がほんとうにきれいだったら、そんなに青（あお）い顔（かお）にもなるまいし、手（て）をふるわせたりともしないだろう・・・・」。3-43-4-17「でも、旦那さま、」と、ベルツッチオは、ためらいがちに言った。3-43-4-18「ニームの刑務所（けいむしょ）で、わたくしの告白（こくはく）をお聞きいただいたブゾーニ司祭さまは、わたくしを旦那さまのところへおよこしになりながら、このわたくしが、心になにか重（おも）い咎（とが）をもっている者（もの）だとお耳（みみ）に入れてくだすったように、旦那さま御自身（ごじしん）おっしゃっておいでだったと思いますが？」。 3-43-4-19「うむ、だが、なにしろりっぱに家令のつとまる男だと言ってよこした。3-43-4-20で、たぶん物（もの）でも盗（ぬす）んだ男（おとこ）だろうくらいに考（かんが）えていた！」。3-43-4-21「伯爵さま！なんということをおっしゃいます！」と、ベルツッチオは、さげすむような調子（ちょうし）で言った。3-43-4-22「でなけでば、コルシカ生（う）まれのお前のことだし、やむにやまれぬ気持（きもち）から、『やって』のけたのだろうくらいに思っていた。3-43-4-23お前の国では、反語（はんご）を使って、命（いのち）をもらうことを『やる』といっているのだから」。 3-43-4-24「じつはそうなのでございます、旦那さま、そうなのでございます！」。3-43-4-25ベルツッチオは、伯爵の前に跪（ひざまず）きながら叫んだ。3-43-4-26「はい、復讐（ふくしゅう）だったのでございます。3-43-4-27あれは復讐だったのでございます」。3-43-4-28「わかった。3-43-4-29だが、わからないのは、なぜ、この家へきて、お前がそれほど興奮（こうふん）するかということなのだ」。3-43-4-30「でも、旦那さま、それは当然（とうぜん）のことなのでございます。3-43-4-31わたくしは、この家で復讐したのでございます！」。 3-43-4-32「えっ！わたしの家で！」。 3-43-4-33「いえ、旦那さま、そのときはまだ旦那さまのお邸（やしき）ではございませんでした」と、ベルツッチオは、人の好（よ）さそうなようすで答えた。3-43-4-34「では、いったい誰のものだったんだ？3-43-4-35門番（もんばん）は、サン・メラン侯爵のものだったとか言っていた。3-43-4-36なんで、サン・メラン侯爵に復讐するようなことがあったというのだ」。3-43-4-37「いえ、あの方（かた）に復讐したのではございません、別（べつ）な人間（にんげん）にたいしてでした」。3-43-4-38「ふしぎなまわり合わさせというものだな」と、モンテ・クリスト伯は、考えこんでいるようなようすで言った。3-43-4-39「それほどお前が後悔（こうかい）している事件（じけん）のあったその家に、まったく偶然（ぐうぜん）、思いもかけずお前がやってきたなんて」。 3-43-4-40「旦那さま、」と、家令は言った。3-43-4-41「これもまた逃（のが）れぬ縁（えん）なのでございます。3-43-4-42まったくそうだと存（ぞん）じます。3-43-4-43第一（だいいち）、あなたさまが、ところもあろうにオートィユにお邸をお求めになる、それがわたくしの人殺（ひとごろ）しをしたその家で、あなたさまが、あの男（おとこ）の降（お）りた梯子（はしご）から庭（にわ）にお降りになる、そしてあの男のやられたところにお立（た）ちになる。3-43-4-44そして、すぐそこの、あの篠懸（すずかけ：プラタナス）の樹（き）の下（した）に、あの男が子供（こども）を埋（う）めた穴（あな）がある。3-43-4-45すべて偶然（ぐうぜん）とは申せません。3-43-4-46ええ、これが偶然（ぐうぜん）と申せますなら、偶然は、あまりにも神（かみ）さまの思召（おぼしめ）しにかなっていると申（もう）せましょう」。 3-43-4-47「それでは、まあ神さまの思召しということにしておこう。3-43-4-48なにしろわたしは、人（ひと）から言われることをそのまま信（しん）じる性分（しょうぶん）だ。3-43-4-49それに、苦（くる）しんでいるもののためには、じゅうぶん寛容（かんよう）な気持（きもち）をもたなければならないことも知っている。3-43-4-50どうだ、気（き）を落（お）ちつけて、その話（はなし）というのを聞（き）かせないか」。

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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/17