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| 3-42-3-1伯爵は自分（じぶん）一人（ひとり）になると、、ポケットから鍵（かぎ）のかかる紙入（かみいれ）を取（と）りだした。3-42-3-2そして、いつも肌身（はだみ）離（はな）さず頸（くび）にかけていた小（ちい）さい鍵でそれを開（あ）けた。3-42-3-3伯爵は、しばらくさがしていたが、やがて何（なに）やら認（みと）めてある紙片（しへん）を選（えら）び出（だ）すと、それを、テーブルの上（うえ）にある売買契約（ばいばいけいやく）とくらべて見（み）た。3-42-3-4そして、記憶（きおく）をたどりながら、「オートィユ・ラ・フォンテーヌ町二十八番地、たしかにこれだ」と、言った。3-42-3-5「さてこうなった上は、宗教上（しゅうきょうじょう）の恐怖（きょうふ）によって自白（じはく）させたものか、それとも肉体上（にくたいじょう）の苦痛（くつう）によってやったものか？3-42-3-6もっとも一時間（いちじかん）もたてばすっかりわかってしまうのだが」。 3-42-3-7伯爵は、しなやかな柄（え）を附（つ）けた小槌（こづち）のようなもので、タム・タムに似（に）た鋭（するど）い音（おと）を出（だ）す鈴（すず）を鳴（な）らして叫（さけ）んだ。3-42-3-8「ベルツッチオ！」。3-42-3-9家令は、戸口（とぐち）に姿（すがた）をあらわした。3-42-3-10「ベルツッチオ、」と伯爵は言った。3-42-3-11「昔（むかし）お前は、フランスを旅行（りょこう）したことがあると言っていたな？」。3-42-3-12「はい、旦那（だんな）さま、まいったところもございます」。3-42-3-13「むろん、パリ近郊（きんこう）は知ってるだろうな」。3-42-3-14「いいえ、旦那さま、存（ぞん）じません」と、家令は答（こた）えた。3-42-3-15だが、人（ひと）の気持（きもち）を見ることにかけて鋭（するど）く目（め）のきくモンテ・クリスト伯は、ベルツッチオが、そう言いながら体（からだ）を震（ふる）わせたことから、それがまさに烈（はげ）しい不安（ふあん）にもとづくものであることを見（み）て取（と）った。 3-42-3-16「残念（ざんねん）だな、一度（いちど）もパリ近郊（きんこう）を見たことがないなんて」と、伯爵は言った。3-42-3-17「じつは、今夜（こんや）すぐに、新（あたら）しい邸（やしき）を見に行きたいと思っている。3-42-3-18いっしょに行ってもらって、いろいろ参考（さんこう）になることを聞かせてほしいと思ったんだが」。3-42-3-19「オートィユへでございますか？」と、ベルツッチオは、その『あかがね』色（いろ）の顔（かお）を青（あお）くしながら叫んだ。3-42-3-20「わたしが、オートィユへまいるのでございますか！」。3-42-3-21「そうなのさ！3-42-3-22オートィユへいくと聞いて、なんでそんなに驚（おどろ）くことがあるのかね？3-42-3-23わたしがオートィユに住（す）むようになれば、お前だって家の者（もの）だ。3-42-3-24いっしょにこなければなるまいじゃないか」。 3-42-3-25ベルツッチオは、厳（げん）とした主人（しゅじん）の眼（め）の前にうなだれてしまった。3-42-3-26そして、身動（みうご）きもせず、なんの返事（へんじ）もしなかった。3-42-3-27「おいおい！どうしたというんだ？3-42-3-28馬車（ばしゃ）の用意（ようい）をさせるため、も一度（いちど）わたしにベルを鳴（な）らさせようとでもいうのかね？」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-42-3-29それは、あの几帳面（きちょうめん）なルイ十四世が、有名な《朕（ちん）は待たされるところだった！》と、言ったときそのままの調子（ちょうし）だった。3-42-3-30ベルツッチオは、客間（きゃくま）から玄関（げんかん）へ飛（と）んでいって、しゃがれ声（ごえ）を張（は）りあげた。3-42-3-31「お馬車の用意！」。 3-42-3-32モンテ・クリスト伯は、ニ三通（に・さん・つう）の手紙を書いた。3-42-3-33最後の手紙の封（ふう）をしているところへ、ふたたび家令があらわれた。3-42-3-34「お馬車がまいっております」。3-42-3-35「よし！お前の帽子（ぼうし）と手袋（てぶくろ）とを持（も）ってお出（い）で」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-42-3-36「お供（とも）をするのでございますか？」と、ベルツッチオは叫んだ。3-42-3-37「むろんのことさ。3-42-3-38わたしはその家に住むつもりでいるんだ。3-42-3-39いろいろ指図（さしず）してもらわなくてはならないじゃないか」。 3-42-3-40伯爵の命令（めいれい）に言葉（ことば）を返（かえ）すということは、いままで例（れい）のないことだった。3-42-3-41そこで家令は、なに一つ言い返さずに、すでに馬車に乗り込み、自分にも乗（の）れと合図（あいず）している主人（しゅじん）の後（あと）から馬車に乗った。3-42-3-42家令は、恭（うやうや）しく、伯爵の前（まえ）の席（せき）についた。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/16